アマゾンの日系移民、農業で脚光=「地球の肺」に森林再生―ブラジル



【トメアス=ブラジル北部=時事】ブラジル北部アマゾン地域で育てた森で作物を生産する農法を日系移民が普及させ、温暖化防止につながる農業として脚光を浴びている。「地球の肺」と呼ばれるほど自然豊かだったアマゾンの熱帯雨林は破壊が進み、森林再生への期待が高まる。

◇「森」で複数の農産物

「アマゾンの持続可能な農業がここにある」。国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)開催地のベレンから車で4時間の日本人移住地トメアスで農業を営む鈴木エルネストさん(59)は語る。両親が福島県出身の日系2世だ。100年前に密林だった農園はパーム油が採れるアブラヤシの木が並び、その隙間でカカオやアマゾン原産のアサイーが実を付けている。昨年は過去最悪の干ばつに見舞われたが、「森に守られた作物は枯れなかった」と胸を張る。

1929年に日本から到着した189人で入植が始まったトメアスの生活は熱帯病などもあり苦難の連続。持ち込んだ苗木の育成で成功した戦後の「コショウ景気」で一息ついたのもつかの間で、70年代に襲った病害で大打撃を受けた。単一栽培のリスクを減らそうと、異国での助け合いを通じ、実がなる樹木で森をつくり複数の農産物を生産する方式が編み出された。

「アグロフォレストリー」という農法だ。トメアスでは収穫時期をずらすことで中小規模の農家でも年間を通じて安定的な収入が得られ、「200通り以上の作物の組み合わせがある」と鈴木さん。日系人を中心に約170の農家が7000ヘクタールで導入している。

国も推奨している。アマゾンは農地転換などで森林伐採が続き、この1年間で東京都の約2.6倍に相当する面積の森林が破壊された。トメアスの農法は二酸化炭素(CO2)を吸収するほか、失われた森が再生され、「地表が覆われて気温の低下につながる」(農業研究機関)という利点がある。

◇日本が工場支援

国際協力機構(JICA)は採れた果実をジュースに加工する工場の建設を支援。87年開設の工場は拡張され、今では年1万トンの処理能力がある。加工された果実は日持ちがするため販路が拡大。トメアス総合農業協同組合の乙幡敬一アルベルト理事長(60)は「工場がなければ今のトメアスはない」と断言する。アサイーやカカオは環境保護の価値を乗せ日本に輸出。ブラジルの大手化粧品メーカーがパーム油の加工工場を建設する構想も浮上している。

国際的な環境意識の高まりでトメアスの農法は海外にも広がり、国際協力で既にボリビアやガーナに渡った。10月にインドを訪問した乙幡理事長は「水田だらけだった。アブラヤシの木を増やしたい」と抱負を述べた。

【時事通信社】 〔写真説明〕自身の農園で実ったカカオを手に取る鈴木エルネストさん=10月22日、ブラジル北部トメアス 〔写真説明〕国際協力機構(JICA)が協力した工場で加工されるアマゾン原産アサイー=10月22日、ブラジル北部トメアス

2025年11月12日 12時41分


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