【カイロ時事】サウジアラビアとイスラエルが、国交正常化に向けて接近している。サウジはアラブの「盟主」を自任。両国の関係改善は長年続くイスラエルとアラブ諸国との対立の構図を塗り替える歴史的合意となる可能性がある一方、パレスチナ問題が置き去りにされるとの懸念も広がっている。
「われわれは、サウジとの歴史的和平という劇的な突破口の入り口にいる」。イスラエルのネタニヤフ首相は22日、国連総会で演説し、正常化がアラブ諸国との対立を終わらせ、パレスチナ和平への展望も開けると力説。関係改善への強い意欲を表明した。
これに先立ち、サウジの事実上の最高権力者ムハンマド皇太子は、20日放映された米FOXニュースのインタビューで「(正常化に)日々近づいている」と発言した。サウジが前向きな姿勢を見せたことで、正常化は現実味を増している。
イスラエルは2020年、アラブ首長国連邦(UAE)などアラブ4カ国と正常化で合意。「イラン包囲網」形成や経済連携強化などを通じ、中東での孤立脱却を目指している。
正常化に向け仲介を進めているのは、来年11月の米大統領選をにらみ外交成果を挙げたいバイデン政権だ。サウジには正常化と引き換えに、米国から強固な安全保障や民生用原子力分野への支援を引き出す思惑があるとされる。
だが、接近の動きにパレスチナは神経をとがらせている。サウジはこれまで、アラブ諸国に「パレスチナ問題が解決しない限り、イスラエルと正常化しない」との立場を示しており、パレスチナ自治政府のアッバス議長は「(パレスチナ人が)完全な権利を得る前に、中東和平を実現できると考えるのは妄想だ」とけん制する。
カイロ大の政治学者ハッサン・ナファ教授は、サウジの主眼は米国との取引にあると指摘。サウジが正常化の条件として、イスラエル側にパレスチナへの「大幅な譲歩」を求めているとされることについても「体面を保つためだ」と分析する。
自治政府はイスラエルによる「譲歩」として、ヨルダン川西岸の管轄エリア拡大などを求めていると報じられる。だが、対パレスチナ強硬派の極右も連立に加わるネタニヤフ政権が、自治政府の要望をすべてのむとは考えづらく、ナファ氏は「パレスチナに正常化の恩恵はないだろう」と予想している。
【時事通信社】
〔写真説明〕サウジアラビアのムハンマド皇太子=9日、ニューデリー(AFP時事)
〔写真説明〕国連総会で一般討論演説を行うイスラエルのネタニヤフ首相=22日、ニューヨーク(AFP時事)
2023年09月25日 14時16分