原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場を選定するための「文献調査」について、長崎県対馬市の比田勝尚喜市長が受け入れない考えを表明した。住民の理解を得るハードルは高く、政府が目指す文献調査の実施地域拡大の難しさが浮き彫りになった。最終処分場が決まらない限り、政府が推進する核燃料サイクルは完成しない。岸田政権は原発フル活用にかじを切っており、処分場選定を前に進める政府の責任は一段と重くなっている。
核燃料サイクルは、再処理工場で使用済み燃料からウランとプルトニウムを取り出し、原発の燃料に再利用する政策。再処理の際に出る放射性廃液をガラスで固めたものが高レベル放射性廃棄物で、地下に埋設処分する。処分場の選定は(1)文献調査(2)概要調査(3)精密調査―の3段階で進み、全体で20年程度かかる。
最終処分場選びは原発の利用を始めてからの懸案だ。2007年に初めて高知県東洋町が文献調査の受け入れを表明したが、町長選で調査阻止を掲げた候補の当選で撤回された。全国初の文献調査は20年に北海道の寿都町と神恵内村で始まった段階だ。
政府は今年4月、「最終処分に関する基本方針」を改定し、「政府の責任」で処分に取り組んでいくことを明確化した。経済産業省は「複数の地域が文献調査に関心を持っている」(幹部)として実施地域拡大を目指すが、今回の対馬市の動きは他の地域の判断にも影響を与えそうだ。
北海道2町村の文献調査は間もなく3年がたち、第2段階の概要調査に進むかが焦点となる。概要調査の実施には、地元市町村長に加え新たに知事の同意が必要となる。道は核のごみの持ち込みに反対する条例を制定しており、鈴木直道知事は今月12日の記者会見で「条例の趣旨を踏まえ、現時点で反対の意見を述べる考えだ」と明言。第2段階への移行は見通せない。
高レベル放射性廃棄物は既に青森県六ケ所村で一時保管されている。県は「青森県を最終処分地にしない」ことを歴代の政権に確認しており、政府は青森県との約束を果たす責任も負う。既存原発の運転期間延長や次世代型原発の開発・建設を打ち出した岸田政権には、処分場選定を前進させる覚悟が求められている。
【時事通信社】
2023年09月27日 19時16分
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