漫画文化の礎を築いた手塚治虫の没後36年、未発表作品のネームが大量に見つかった。斬新なストーリーに、躍動感あふれるキャラクター。これらが鉛筆の力強いタッチで表現されており、手塚漫画の研究者らは「まるで新作だ」「続きが読みたかった」と驚きを隠さない。
今回見つかったネーム3本のうち2本は、存在が知られていなかった作品だ。青い色鉛筆の下書きで構図を決めた上で、鉛筆で力強くキャラクターを描き、造形はしっかりしている。せりふも丁寧に書き込んでおり、物語を追いやすい。手塚プロダクションで資料管理の責任者を務める田中創さんは「新作と言っていい出来栄え。ファンも喜ぶはずだ」と語る。
執筆時期とみられる1973年は手塚にとって転機の年だった。国民的アニメ「鉄腕アトム」などを手掛けたスタジオ「虫プロ」が、資金繰りの悪化で11月に倒産。60年代後半からの劇画ブームもあり、手塚作品の人気が低迷するさなかの出来事だった。
手塚漫画を研究する同志社大名誉教授の竹内オサムさんは「かつてない不振に苦しんだ時期だった」と語る。既に「漫画の神様」と呼ばれていた巨匠が、自ら出版社を回って新作を売り込む姿は、業界で驚きをもって受け止められた。今回の2本のネームはこの提案に使われたとみられる。
一方、73年11月に「ブラック・ジャック」の連載がスタートする。生命倫理を問うテーマ性や、医学博士としての知識を生かした手術シーンの描写も相まって大ヒット作に。これが第2の黄金期の幕開けとなり、「三つ目がとおる」「アドルフに告ぐ」「陽だまりの樹」など後期の名作が生まれることになる。
【時事通信社】
〔写真説明〕発見された手塚治虫の未発表作品のネーム(山岳もの)の決闘シーン=1日、埼玉県新座市(C)手塚プロダクション
〔写真説明〕発見された手塚治虫の未発表作品のネーム(野生児もの)の冒頭シーン=1日、埼玉県新座市(C)手塚プロダクション
2025年10月06日 07時44分