海臨む温泉旅館、再建遠く=自慢の景色様変わり―上皇ご夫妻も35年前に宿泊・輪島



能登半島地震では、上皇ご夫妻が宿泊されたことがある石川県輪島市の旅館「輪島温泉八汐」も甚大な被害を受けた。客室から一望できる日本海の景色が自慢の宿だったが、海底の隆起で近くの岩礁がむき出しに。建物は修復が難しいほど損傷を負い、再建のめどは立っていない。

18日、数日ぶりに旅館を訪れた常務の谷口浩之さん(50)は、館内をヘッドライトで照らしながら歩いた。「柱の亀裂が広がっているな」「こんなに段差はなかったのに」。天井が剥がれ落ち、床がめくれ上がった廊下で何度もため息をついた。厨房(ちゅうぼう)には元日夕に用意していた会席料理が残ったままだった。

1959年開業の八汐は、東に輪島港、北西に白い砂浜を見渡せる高台にある。88年7月には、自然公園大会出席のため同県を訪れた皇太子夫妻時代の上皇ご夫妻が宿泊。敷地内には「行啓記念」と記された柱が立てられている。

ご夫妻は貴賓室に滞在したといい、谷口さんの父で社長の和守さん(81)は「大変光栄なことだった」と振り返る。中学3年生だった谷口さんは廊下でご夫妻を出迎えた際、上皇后さまから「あら何年生?」と声を掛けられたことを今も覚えている。ロビーのショーケースには、当時撮影したご夫妻の写真を大事に飾っている。

そんな歴史ある旅館を地震が襲った。発生時はほぼ満室だったが、50人以上いた宿泊客は無事。しかし、大津波警報が出されると、住民が着の身着のまま駐車場に避難してきた。寒さをしのぐため羽根布団や浴衣を配り、客や住民計100人ほどが一夜を過ごしたという。

「最初は『修復できるかも』と淡い期待を持っていた」と谷口さん。だが、日に日に損傷が広がる建物を目にすると解体が頭をよぎる。「すぐに再建したとしても、しばらく観光気分を楽しめない。土地を仮設住宅用に貸して、その間に計画を練ることもできる」。さまざまな可能性を探りながら、復興までの長い道のりを見据えている。

【時事通信社】 〔写真説明〕地震で被害を受けた旅館「輪島温泉八汐」で取材に応じる常務の谷口浩之さん=18日、石川県輪島市 〔写真説明〕地震で被害を受けた旅館「輪島温泉八汐」で取材に応じる常務の谷口浩之さん。右は皇太子夫妻時代に上皇ご夫妻が宿泊された後、立てられた記念の柱=18日、石川県輪島市 〔写真説明〕旅館「輪島温泉八汐」に残る皇太子夫妻時代の上皇ご夫妻が宿泊された時の写真=18日、石川県輪島市

2024年02月22日 14時10分


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