【ワシントン時事】米経済の先行きに不透明感が強まっている。ニューヨーク株式相場のダウ工業株30種平均は1月末の直近高値から4%超下落するなど、金融市場は不安定な動きを続ける。トランプ大統領が進める高関税政策がインフレを招き、政府職員の大幅削減が堅調な景気を失速させるとの警戒感が背景にあり、こうした不安が実体経済を圧迫する恐れも出てきた。
7日公表された2月の雇用統計で、景気動向を敏感に反映する非農業部門の就業者数は前月比15万1000人増だった。市場予想をやや下回ったものの、連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は同日の講演で「労働市場は堅調だ」との見方を示した。
しかし、項目別では連邦政府が1万人減となった。トランプ政権は財政赤字圧縮のため、政府機関での強引な人員削減を進めており、就業者の伸びは今後鈍化するとの見方は根強い。ホワイトハウス高官は「次回の統計で、連邦政府の雇用はさらに大きく減る」と事も無げに語った。
一方、トランプ氏の高関税政策はインフレ再燃への懸念を高めている。ミシガン大の2月の消費者調査では、1年先のインフレ率予想が4.3%と、前月の3.3%から急上昇した。FRB内からは「インフレには重大な上振れリスクがある。政策金利は現行水準でしばらく据え置くのが妥当」(高官)との声が上がる。
ベッセント財務長官は7日、テレビインタビューで「関税は一度きりの価格調整を招くにすぎない」と、不安の払拭に努めた。また、米経済が「財政支出の『依存症』に陥っている」と警告。政府機関を縮小し、民間支出の拡大を図る必要性を訴えた。
しかし、トランプ政権の政策転換がもたらしている先行き不安は、実体経済に響く恐れがある。パウエル氏は不透明感の高まりが「今後の消費支出や企業投資に影響するかはまだ分からない」としつつも、「家計や企業の支出に関するさまざまな指標を引き続き注視する」と強調した。
【時事通信社】
2025年03月08日 20時31分
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