【ニューヨーク時事】投票まで1週間余りとなった米大統領選で、民主党のハリス副大統領が人工妊娠中絶を争点として前面に押し出し、女性票の上積みや、影響を被る低所得層からの支持底上げを図っている。保守的な南部州における中絶の全面禁止や規制強化の動きを受けて、中絶の権利を定めた連邦法の制定を主張。共和党のトランプ前大統領はこの問題に関しては深入りを避け、守勢に回っている。
◇激戦ジョージアで訴え
「女性が自らの身体について決定を下し、政府に何をすべきか指示されないという基本的な自由のために闘う」。激戦州の一つ、南部ジョージア州アトランタで19日に開かれた集会で、ハリス氏は聴衆に呼び掛けた。安全な中絶処置を受けられず死亡したと報じられた黒人女性アンバー・サーマンさん(28)の家族も、会場に駆け付けた。
ジョージア州法は性的暴行による妊娠などの例外を除き、妊娠6週ごろの心拍確認以降の中絶を禁止。この段階では妊娠に気付かないことが多く、全面禁止に近い。中絶薬を処方したり、手術を行ったりした医師は、最長10年の禁錮刑を科される恐れがある。
◇少数派に重い経済負担
ジョージア州法を違憲として提訴した女性支援団体「シスターソング」は「中絶のため何百マイルも離れたクリニックまで行く費用を出せない有色人種は多い」と指摘する。同州に限らず、規制が厳しい各州で中絶を希望する女性は、州外の医療機関を頼らざるを得ない。黒人などの人種的少数派(マイノリティー)に多い低所得層にとって旅費は重い負担だ。
疾病対策センター(CDC)によると、2021年時点で15~44歳の黒人女性1000人当たりの中絶件数は白人の4.5倍。人口に占める黒人の割合が高い南部州では、中絶へのスタンスが有権者の投票動向に影響する可能性がある。
◇「中立」装う
ハリス氏は、連邦法制定によってすべての州で中絶の権利を守ることができると訴える。これに対しトランプ氏は、「中絶規制の是非は住民投票や法整備によって各州が決めるものだ」としている。
トランプ氏は、中絶禁止を求めるキリスト教福音派などを支持基盤に抱える。だが、中絶禁止に踏み込めば、女性や少数派の票を失う可能性が高い。このため、自身は当事者ではないとして論争から距離を置き、「より中立の立場に見えるよう腐心している」(米メディア)のが現状だ。
ハリス氏は攻勢を強めている。25日には、共和党の牙城と目されている南部テキサス州で大規模集会を開き、「トランプが再び勝利すれば、全国一律に中絶を禁じるだろう」と主張。人気歌手ビヨンセさんも姿を見せたステージ上で、トランプ氏が大統領に返り咲けば、強硬姿勢にかじを切ると危機感をあおった。
【時事通信社】
〔写真説明〕ハリス米副大統領の選挙集会に参加したアンバー・サーマンさんの母=19日、南部ジョージア州アトランタ(EPA時事)
〔写真説明〕トランプ前米大統領(左)とハリス副大統領(AFP時事)
2024年10月28日 18時03分