イスラエルによるパレスチナ自治区ガザでの軍事作戦が長期化していることについて、イスラエル国内ではネタニヤフ首相がイスラム組織ハマスとの停戦をあえて拒否し、政権の延命を図っていると疑う見方が出ている。イスラエルのヘブライ大学のギデオン・ラハト教授(政治学)は、通算18年におよぶ長期政権で政敵排除を進めてきたネタニヤフ氏が社会の感覚から「孤立した王様」と化し、強硬路線に傾斜したという見方を示した。
◇選挙、裁判を回避
ハマスは2023年10月にイスラエル領内に奇襲を仕掛けて約1200人を殺害、多数の人質をガザに連行した。イスラエル史上最悪の悲劇となったこの攻撃を許したことは、安全保障に精通しているとして国内で名声を高めたネタニヤフ氏にとって、痛恨の打撃となった。
ネタニヤフ氏の責任を問う声は根強いものの、軍事作戦継続を背景に26年に予定される総選挙を前倒しする機運は高まらない。仮に選挙で敗北して首相の座を失えば、軍事作戦を理由に延期されてきた同氏の汚職を巡る裁判が進み、有罪判決での収監も視野に入る。
地元紙ハーレツは、ネタニヤフ氏はこれまでの人質解放に向けた停戦交渉で、ハマスに拒否されることが明白な条件をあえて提示し、何度も破綻に追い込んだと報じている。
◇指導者は「自分だけ」
ラハト氏は、停戦に応じないネタニヤフ氏の最大の目標は「権力の座にとどまることだ」と断言。権力に執着する背景に「自分以外に誰も国を率いることはできない」という過信があるとみている。ガザでの作戦では、軍からの異論を押し切って断行を命じることもあったとされる。
ガザはジェノサイド(集団殺害)と指摘される惨状に陥り、国際社会からの非難も強まっている。ただラハト氏は、トランプ米大統領が後ろ盾として支える限り、ネタニヤフ氏は国内で「不当な国際社会に毅然(きぜん)と立ち向かう指導者」として立ち振る舞うことができると解説した。
◇バランス感覚喪失
ネタニヤフ氏は19年に収賄と詐欺、背任の罪で起訴された後、従来の政治的なバランス感覚を失ったとラハト氏は分析する。同じく司法を疑問視する対パレスチナ強硬派の極右政党と連立を組み、自身も過激な言動を繰り返すようになったという。
ラハト氏は、ネタニヤフ氏に大きな影響力を持つ人物は妻のサラ氏とトランプ氏に限られ、周囲には「忠臣」しかいないと指摘。こうしたところに、長期政権の「病理」が如実に表れていると述べた。(カイロ時事)。
【時事通信社】
〔写真説明〕イスラエルのネタニヤフ首相=9月29日、ワシントン(AFP時事)
〔写真説明〕オンライン取材に答えるイスラエルのヘブライ大学のギデオン・ラハト教授=9月10日
2025年10月06日 06時59分