量子科学技術研究開発機構などの研究チームは30日、心の中で思い描いた風景や物体などのメンタルイメージを、機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)で取得した脳の信号から復元する新たな技術を開発したと発表した。これまで、目で見ている画像や、文字や幾何学模様などに限定したイメージの復元例はあるが、任意のメンタルイメージは初めてだという。新たな意思伝達装置の開発や、夢や幻覚を見る仕組みの解明につながると期待される。論文は同日、国際科学誌ニューラル・ネットワークス電子版に掲載された。
量研機構の間島慶研究員らは、3人の被験者に1200枚の画像を見てもらい、脳信号をfMRIで計測。画像を見ている際の脳信号を1枚ずつデータ化した。次に、画像認識用AI(人工知能)で画像の特徴を膨大な数値で示した「数値表」も1200枚分作成。これらのデータを基に、任意の画像を見た際の脳信号データに対応する画像の数値表を作成する翻訳プログラムを構築した。
同じ被験者に1200枚とは別の画像25枚を見せた後、画像を隠してそのうちの1枚を思い浮かべてもらい、脳信号をfMRIで取得。翻訳プログラムに通して被験者が思い浮かべたメンタルイメージを数値表にした。
その上で、画像生成用の別のAIが新たに描いた画像の数値表が、メンタルイメージの数値表に近づくよう修正を500回繰り返し、「復元画像」を生成した。
その結果、画像生成AIを使わない従来法に比べて、復元画像と元の画像の類似度評価が大幅に向上。ヒョウの顔を思い浮かべさせる課題では、復元画像でも耳の形やヒョウ柄、口元などの特徴が現れていた。
間島研究員は「人類が他人の頭の中をのぞき込んだ初めての成果。今後、心の中についての理解が進むといい」と説明する一方、「将来的には倫理的課題の検討も必要だ」と述べた。
【時事通信社】
〔写真説明〕被験者が事前に見たヒョウの画像(左)、生成AIを用いた新手法で、メンタルイメージを復元した画像(中)、従来手法による復元画像(右)。新手法では、うっすらとしたヒョウ柄や耳、口元などが再現されている(量研機構、NICT、大阪大提供)
2023年11月30日 00時12分