増大するサイバー攻撃の脅威に対し、「能動的サイバー防御」導入法は、政府が平時からインターネット上の通信を監視し、警察・自衛隊による無害化措置を可能とすることで、未然の被害防止を目指す。立憲民主党など多くの野党も賛成したが、憲法が保障する「通信の秘密」への影響などの懸念は残った。実効性と国民の権利保護とのバランスをどう保つか。透明性の確保が今後の課題となる。
攻撃者はひそかに第三者の通信機器を乗っ取り、攻撃の基盤を形成する。このため、政府は平時からの通信監視が必要と判断した。同法は、被害を防ぐ「公益性」と、通信の秘密やプライバシーを守る「歯止め」を前面に押し出した。
メール本文や添付ファイルの画像など「意思疎通の本質的内容」は閲覧・分析せず、監視対象から「送信元と受信先が共に日本国内の通信」を除いた。運用を監督する「サイバー通信情報監理委員会」を新設し、国会への報告も規定した。監理委は公正取引委員会などと同じく、独立性の高い組織とする。
石破茂首相は15日の参院内閣委員会で「『通信の秘密』に対する制約が必要やむを得ない限度にとどまる制度だ」と理解を求めた。
ただ、国内同士の通信でも、海外のサーバーを経由する通信アプリなどを利用すれば監視対象となり得る。また、警察庁によると99%以上の攻撃が海外発だが、国内からの攻撃が増える恐れもある。平将明サイバー安全保障担当相は、国内通信の監視について「法律の構成そのものが変わってしまう」と慎重な立場を示したが、将来的に対象を拡大する可能性は否定しなかった。
監理委の体制について、政府は「必要な規模を確保する」として具体的には示さず、実効性は未知数だ。国会報告についても「条文の規定が不十分」として、報告事項を明記する修正が衆院で行われたが、通信監視や無害化は件数のみとされた。政府は措置の内容は「手の内をさらす」として譲らず、民主的統制が担保されたと言えるかは微妙だ。
16日の参院本会議で賛成討論に立った立民の鬼木誠氏は「法案成立以降も懸念、不信払拭に向けた政府の継続した努力を求めたい」と指摘した。
【時事通信社】
〔写真説明〕参院本会議で「能動的サイバー防御」導入法が成立し、一礼する平将明サイバー安全保障担当相=16日、国会内
〔写真説明〕首相官邸に入る石破茂首相=16日、東京・永田町
2025年05月17日 07時10分