政府が年金制度改革関連法案を国会に提出した。近く始まる論戦は夏に参院選を控え、与野党とも有権者の視線を意識しながらの攻防となる。基礎年金(国民年金)底上げ策を復活させるべきだとする立憲民主党などの修正要求に与党がどう対応するかが焦点。少数与党の政治状況下、成立に向けた壁は高い。
「『あんこ』の入っていないあんパンだ。われわれは責任ある対応をする」。立民の野田佳彦代表は16日の記者会見で、将来の低年金対策の「目玉」として盛り込まれていた底上げ策を削除した政府・自民党の判断を批判し、復活を求める立場を明確にした。
当初案は会社員らが加入する厚生年金の積立金を活用するとしていた。「流用」と受け取られるとの懸念が自民内に広がり、法案から外された。
これに対し、立民や国民民主党は参院選公約で就職氷河期世代対策に力点を置く方針。争点化に向けて舌戦は既に始まっており、国民民主の玉木雄一郎代表は13日の記者会見で「(底上げを)放置したまま氷河期対策などおかしい」と断じた。日本維新の会も法案を問題視する。
審議は衆院で20日にスタートする。今国会、ここまで存在感の乏しい立民は年金法案が「見せ場になる」(幹部)と期待しており、野田氏は21日の党首討論で石破茂首相にただす構えだ。内閣不信任決議案提出の判断材料にもなるとみられる。
自民の参院側は、今国会成立には月内の衆院通過が必要だとして迅速な審議を促す。衆院で与党は過半数の議席を持っておらず、野党の主張を受け入れて賛成してもらうことが不可欠。立民幹部は「自民が修正を拒めば決裂だ」とけん制する。
自民には「消えた年金」問題で大敗した2007年参院選の苦い記憶が残る。基礎年金底上げ策を求める世論が高まれば、逆風が吹く可能性がある。一方で立民などの主張をのめば「ぶれた」印象を与え、それはそれで参院選に影響する。
首相官邸関係者は「修正できれば自分たちの手柄、できなければ自民が邪魔したとアピールするのだろう」と警戒。自民幹部は「どの程度のめば賛成してくれるのか。高い球には対応できない」と苦しい表情を浮かべた。
一方で立民も、底上げ策復活が会社員らの反発を招きかねない事情を抱える。立民を支援する連合は16日、事務局長談話を発表し、「(厚生年金の)保険料負担者の納得」を求めた。
「採決は次の国会に先送りし、ゆっくり議論すればいい」。着地点が見えない中、ある公明党幹部はこう漏らした。
【時事通信社】
〔写真説明〕年金制度改革関連法案に関し、厚生労働省の担当者(手前)からヒアリングする立憲民主党の山井和則氏(奥右から2人目)=16日午後、国会内
2025年05月17日 07時13分