華やかなスターオーラをまとい、しなやかなダンスと繊細な演技で魅了した元宝塚歌劇団花組トップスターの柚香光。昨年5月に宝塚を退団してからも多彩な活動で話題を振りまき、5~7月は劇団☆新感線の舞台「紅鬼物語」(作・青木豪、演出・いのうえひでのり)に主演する。人と人ならざる存在をめぐる、新感線流のドラマチックなおとぎ話で、演劇作品としては、これが退団後初の舞台となる。「柚香光という男役を抜け出し、一人の俳優として生まれ変わる」、その第一歩だ。
柚香が演じる紅子は、平安貴族との間に子を成した鬼。「笑いの絶えない活気のある稽古場で、紅子を探す作業を、楽しく前のめりになりながらやっています」と手応えを感じながら、稽古が進むにつれ役作りも深まった。「最初は、人間界で生きているけれども、ふとした瞬間に豹変(ひょうへん)して襲い掛かるような鬼を想像していましたが、妻であり、母であり、そして鬼である紅子は情が深く、自分の存在を胸の奥底に秘めながら暮らす切なさ、苦しさ、悲しさがあふれている。紅子のいろいろな面から人間らしさを学んでいます」
宝塚時代にも「エリザベート」新人公演のトート役、「ポーの一族」のアラン役をはじめ、人ならざる役の繊細な内面を表現してきた。「今回の鬼で言うなれば、鬼とは人間がつくり出した存在で、誰しもの中にいて、自分の中にもいる。世の中にあふれている鬼の存在について考えます。ということは人間を考えることが大事だなと思います」
劇団☆新感線の舞台は宝塚に在団中から触れてきた。初観劇は2011年に上演された小栗旬主演の「髑髏城の七人」だった。「立ち回りや音楽、見得の効果音が格好良くて興奮しました。舞台上の活気、緊張と緩和のバランス、すべてが新鮮で印象的でした」。現在、古巣の宝塚大劇場では奇しくも星組が新感線の人気作「阿修羅城の瞳」をミュージカルとして上演中で、同作品で退団する同期の礼真琴とは、「びっくりだね」と驚き合ったという。
宝塚では2009年の入団以来、15年間にわたって男役を作り込んできた。それだけに、稽古場では女性を演じる上での課題も多かった。「男役とは所作や、芝居をする上での基本的な体の使い方が全然違います。いろいろな葛藤を抱えている紅子から学びながら役をつくっていきたいと思います」。その過程を、「男役からの脱皮」と表現するが、「男役をやってきたからこそできるお芝居というものが必ずある」とも感じている。
退団から約1年。この間、昨年9月にソロコンサート、12月には宝塚OGとのショー公演など、精力的に活動してきた。「いろいろな気付きや出会い、学びが詰まった濃い1年でした。宝塚で、ずっと一緒にいるみんなと新たな作品をつくり上げていくのも、かけがえのないものですけれども、卒業してからは新しい出会いがどんどんあり、ありがたい時間を過ごさせていただいています」
それは自分自身を見詰め直す機会でもあった。「宝塚では、自分のことより組のことや作品のことを考えていましたが、自分のことを考える時間がすごく増えました。自分はこういう人間だったんだな、こういうことを思っていたんだなということを学ばされました」
今年1月に大きな話題を集めたのが、パリ・オペラ座バレエ団のエトワール(トップダンサー)のマチュー・ガニオとの共演だ。「シアターダンスやショーダンスをやってきた人間として、自分の踊りやパフォーマンスに向き合い、考える時間になりました。マチューさんはすごい経歴のスターさんでいらっしゃるのに、相手をホッとさせるような包容力がある。なぜパリ・オペラ座のエトワールとして長い間牽引してこられたのかが分かりました」と、その人柄にも刺激を受けた。
7月にはダンス公演「バーン・ザ・フロア
2025」へのゲスト出演も決まっている。「ご覧いただいたお客さまが一緒に踊りたくなるような作品で、柚香の踊りというものを楽しんでいただけるようにしたい」と意気込む。さらに、12月は小野不由美さんの人気ファンタジー小説を舞台化したミュージカル「十二国記」に主演するなど、今後も引く手あまた。「舞台も、映像も、いろいろなことをやっていきたい。でも、まずは今、頂いているお仕事を一つひとつ丁寧に、一瞬一瞬の時間を大切に過ごしたいと思っています」
(時事通信社・中村正子)
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2025年劇団☆新感線45周年興行・初夏公演
いのうえ歌舞伎【譚(たん)】Retrospective「紅鬼物語」は、大阪・SkyシアターMBSで5月13日~6月1日、東京・シアターHで6月24日~7月17日。「バーン・ザ・フロア
2025」は大阪・フェスティバルホールで7月25~28日。
〔写真説明〕「男役を封じ込めるのではなく、紅子として舞台上に存在できるよう、説得力のあるお芝居をしたい」と話す柚香光=東京
〔写真説明〕「宝塚では目の前の課題に必死に向かい合って、常に全力投球、フルスイングでした」と振り返る柚香光=東京
〔写真説明〕「男役として培ったものをどの程度出すか、バランスを考えながらやっています」と明かす柚香光=東京
〔写真説明〕「紅子は弱さもあるけれど、強さもあり、女性としての生きざまがすてきだと思う」と言う柚香光=東京
2025年05月12日 20時34分