【ニンティ(中国チベット自治区)時事】平均標高が4000メートルを超え、「世界の屋根」といわれる中国チベット自治区で、鉄道網の整備が加速している。総延長は既に1200キロ近いが、さらなる延伸計画も進む。政府は立ち遅れた地域経済の発展を図り、住民の所得向上を実現することで、社会の「安定化」を目指す考えだ。
「国家統一を守り、辺境の安定を強化し、経済や社会の発展を推進するために重大な意義がある」。国営新華社通信によると、習近平国家主席は2020年11月、自治区の区都ラサと四川省の省都成都を結ぶ「川蔵鉄道」の整備加速に向け、政府や建設業者らにハッパを掛けた。
川蔵鉄道は32年の全線開通を予定する巨大プロジェクトで、総工費は日本のリニア中央新幹線(品川―名古屋間)の約7兆円を上回る見込み。21年にはラサと自治区東部のニンティを結ぶ区間が先行開業した。
記者が30日に乗車した列車は険しい峡谷やトンネルをいくつも通過し、ラサから約3時間40分でニンティに到着した。乗り合わせたチベット族のペマ・ドゥロガさんは、地元からラサへの移動が5時間から1時間になったと説明。「母親をラサの病院に連れて行くため、頻繁に利用している」と話した。
チベットでは06年の「青蔵鉄道」開通を皮切りに鉄道網の整備が進む。14年にはラサから西に向かう一部区間が開通。これを延伸してネパールの首都カトマンズまで結ぶ構想も浮上している。
ただ、中国では近年整備された鉄道の多くが赤字に陥っているのが実情だ。チベットは人口密度が低い上、山岳地帯で工費も高額になりがちで、川蔵鉄道も赤字が必至とみられている。
北京の外交筋は、チベットでの鉄道敷設は「経済よりも政治的な要素が大きい」との見方を示す。漢族が政治の実権を握る中、チベットのような少数民族地域の発展は「統治の安定」に不可欠なためだ。
軍事的な狙いも見え隠れする。中国メディアは21年、ラサとニンティの間で鉄道を使って軍人や軍事物資を移動させたと伝えた。川蔵鉄道は国境紛争を抱えるインドとの国境近くを通るルートで建設されており、専門家からは「中国が有事への対応を見据えて戦略的に整備を進めている」といった指摘も出ている。
【時事通信社】
〔写真説明〕ラサ駅に停車中の列車=30日、中国チベット自治区ラサ
〔写真説明〕ラサからニンティへ向かう川蔵鉄道の車内=30日、中国チベット自治区
〔写真説明〕ニンティ駅の様子=30日、中国チベット自治区ニンティ
2025年03月31日 13時30分