
高市早苗首相は「予算カット」発言などを踏まえて事実上更迭した簗和生前農林水産相の後任に武部新・元農水副大臣を充て、揺れる内閣の立て直しを急いだ。人選には永田町の論理にとらわれない「高市流」へのこだわりがにじんだが、内閣改造から1カ月足らずの辞任劇に野党は勢いづいており、首相の国会戦略に狂いが生じつつある。
「農林部会長もやっているし、農水副大臣もやっている。全部頭に入っているはずだ。しっかりやってください」。簗氏更迭から一夜明けた15日午前、首相は武部氏を首相官邸の首相執務室に呼び込み、農水相起用を伝えた。
官邸関係者によると、首相が農水相交代の準備に入ったのは簗氏更迭の1日前の13日夜。候補者5人の名前を挙げ、醜聞などがないかを事前に調べる「身体検査」を国家情報局に指示した。
参院予算委員会の質疑を間近に控える中、党内には農水相経験者から選ぶべきだとの声があったが、候補者に挙がった5人のうち経験者は自民党派閥裏金問題で辞任した宮下一郎氏だけ。結局、首相が選んだのは初入閣組の武部氏だった。
首相は今回も党所属衆院議員に書かせた「役職希望アンケート」を重視した。首相から指示書を受け取った武部氏は「(アンケートに)書いたことを前に進めてほしいということだった。しっかり目を通してもらえていると思った」と語った。
首相の政局的な思惑を感じ取る向きもある。武部氏は2025年、文部科学副大臣の立場にありながら石破茂首相(当時)に退陣を求める姿勢を事実上明確にし、退陣の流れをつくるのに一役買った。麻生派関係者は「論功行賞人事だ」と語る。武部氏は昨年の党総裁選で首相と争った小林鷹之政調会長に近く、「小林氏のグループにくさびを打つ狙い」(政府関係者)との見方も出ている。
もっとも、「安全運転」を求める意見を聞き入れずに我流を貫いたことで、首相は今回もより重い任命責任を背負うことになった。武部氏は準備時間がほとんどないまま16日からの参院予算委に臨むことになる。答弁で立ち往生すれば、責任論が党内に広がる可能性も否定できない。
首相にとっては食料品の消費税減税関連法案の20日の衆院審議入りが「至上命令」。簗氏更迭に踏み切ったのはそのためでもあった。しかし、野党は勢いに乗る。衆院会派「中道」は20日に首相出席の質疑を行った上で、法案が付託される衆院財務金融委員会でも首相質疑を行うよう要求。自民と折り合わず、審議入りは決まらなかった。
立憲民主党は内閣の混乱を踏まえ、16、19両日に予定する参院予算委の質疑を19、20両日にずらすよう揺さぶりをかけた。予算委の遅れは20日の審議入りがずれ込むことを意味するため、自民は野党の質疑時間を増やすことを提案し、ようやく了解を取り付けることにこぎ着けた。
中道と立民は衆院の内規に反して衆院議員会館で政治資金パーティーを開いていた関芳弘文部科学相らを次の標的と定め、衆参予算委の集中審議なども要求している。立民の斎藤嘉隆国対委員長は「閣僚の資質を当然問うていくことになる」と記者団に語った。
【時事通信社】
〔写真説明〕皇居での閣僚認証式を終え、高市早苗首相(右)と記念撮影する武部新農林水産相=15日午後、首相官邸
〔写真説明〕記者団の取材に応じる高市早苗首相=15日午前、首相官邸
〔写真説明〕初登庁する武部新農林水産相=15日午後、東京都千代田区
2026年10月16日 07時29分