
【ストックホルム時事】北川進・京都大特別教授が8日行ったノーベル化学賞の受賞記念講演の要旨は次の通り。
現在、人類は新しい技術を開発し、エネルギーを大量消費している。地下資源の枯渇と地球温暖化が懸念される今、固体や液体資源の時代から、気体を資源とする時代に来ている。カギを握るのが多孔性材料で、活用すれば、気体の分離・貯蔵・変換が可能になる。
古代エジプトでは活性炭が使われ、18世紀にはゼオライトが見つかった。アルフレッド・ノーベルはダイナマイトに天然の多孔性物質を活用した。
学生の頃、湯川秀樹博士の著書を読み、荘子の「無用の用」という思想に深い感銘を受けた。役に立たないものは何もない。一見何もない空間でも、大量に並べると多孔性材料になった。
京都の「清水の舞台」は、柱を組み合わせることで壮大で強固な構造となった。金属イオンと有機分子を溶液中に混ぜると、自発的にナノスケールの空洞を持つ構造を組み上げる現象がある。1ミリの結晶中に1兆の空洞が存在し、気体を吸収、捕捉するには十分だ。
ある日、結晶構造を解析する待ち時間に中間構造を分析していたところ、学生が「この構造には空洞がある」と言った。これが、多孔性材料の研究へ向かう第一歩となった。
その後、世界で初めてガス吸着が可能な金属有機構造体(MOF)を作り出した。取り込む気体に合わせて構造が柔軟に動くMOFなども開発した。これらは素晴らしい成果だが、実用化は始まったばかりだ。世界には55社以上のスタートアップがあり、彼らが生産規模の拡大と低コスト化に貢献している。
今後は本物の金や石炭や石油でもない、気体が金となる時代が来る。気体だけで生きられる時代が実現する。
〔写真説明〕京都大の北川進特別教授=8日、スウェーデン・ストックホルム
2025年12月10日 12時43分