日鉄、買収実現近づく=安保懸念和らぐ、投資は重荷に―USスチール



日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収は、合意から約1年半にわたる米政府との折衝を経て、承認に大きく近づいた。ラトニック米商務長官は米国時間5日の下院公聴会で「大統領は、この取引が米国にとって良いものになるとの結論に達している」と説明。「現在、米国を確実に保護する方法について協議している」と述べた。米政府に事実上、重要議案の拒否権を持たせる「黄金株」など、安全保障上の措置を巡り最終調整しているもようだ。

買収が実現すれば、日鉄は安定した需要増が見込める米国市場で成長に向けた確かな足掛かりを築ける。人口減による国内市場の縮小や、中国の安価な鉄鋼輸出による市況低迷などの逆風が続く中、約140億ドル(約2兆円)もの巨額買収にこだわってきたのは、米国でのサプライチェーン(供給網)や販路を、自力開拓より迅速に手に入れられるからだ。

「米製造業の復活」を掲げるトランプ氏に対し多額の投資も約束。先月末の演説で、同氏は日鉄が買収額とは別に、生産拡大や最先端設備の導入に約140億ドルの投資計画を示したと称賛した。

一方で、市場からは「採算が取れる投資計画なのか」との声も上がる。SMBC日興証券の山口敦シニアアナリストはリポートで「27年3月期以降の年間設備投資は、過去数年の平均の倍近い1兆円超となる」と分析。早期に投資費用を回収できなければ、財務の健全性を示す負債資本倍率が上昇するリスクがあると懸念する。

ただ、大和証券の尾崎慎一郎シニアアナリストは、巨額投資と黄金株を前提に「完全子会社化での妥結が一番考えられるシナリオだ」と指摘。黄金株が経営に与える影響については、既に日鉄が米国外への本社移転や雇用削減などは行わないと約束していることを踏まえ、「意思決定上の問題となる可能性は低い」との見方を示した。

【時事通信社】

2025年06月07日 07時08分

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