
政府のインテリジェンス(情報収集・分析)能力を強化する「国家情報会議」設置法案は今国会で成立する見通しだ。世界の安全保障環境が厳しさを増す中、高市政権は「情報の縦割り」を打破し、官邸主導の体制整備を急ぐ。ただ、国民監視やプライバシーの侵害に対する懸念は消えない。法案の狙いや課題を巡り、前公安調査庁調査第二部長の平石積明氏と、憲法が専門の学習院大の青井未帆教授に話を聞いた。
◇スパイ対策の法整備必要=平石積明・前公安庁第二部長
―国家の情報活動を巡る状況は。
ドイツなど欧州主要国も体制強化に着手している。急速に変化する状況下で政策決定の迅速化を図るためだ。日本は法的根拠と明確な権限の付与がない中、健闘している。特に近隣の極東ロシア、北朝鮮、中国などの動向把握は欧米諸国と遜色ない。高市政権で法的根拠と明確な権限がそろえば世界水準に近づく。
―国家情報会議と国家情報局を設置する意義は。
各省庁が所掌に基づいて実施する情報活動では横断的な統合機能が欠如し、大局的な政策判断に十分反映されにくい。今後は情報資源の一元管理や、政策決定者への直接的な分析・報告体制の確立が図られる。まずは全ての情報手段を活用した総合分析の体制整備が急務だ。
―スパイ防止法制定など今後の取り組みは。
国内はスパイ対策、海外では邦人保護支援といった対外活動の包括的な法整備が必要だ。現代は国家主体による秘密作戦やスパイ活動、戦略的情報操作が頻発しており、こうしたグレーゾーンにも適応可能な枠組み整備も求められる。
重要技術の流出防止など、経済スパイ対策も不可欠だ。外国勢力による影響工作の実態把握では、米国の「外国代理人登録法」のような制度が望ましい。こうした諸施策に実効性を持たせるには専門情報機関の設置が不可欠だ。
―透明性や民主的な統制を求める声も強い。
政府と国会の「情報ギャップ(格差)」も課題だ。国会による行政監視の一環で、一定の議員らに機密情報を閲覧できる権限を付与すれば透明性確保につながり得る。特定秘密を監督する内閣府の独立公文書管理監や衆参両院の情報監視審査会を拡充・強化し、情報コミュニティーによる活動全般を対象とすることも選択肢だ。
「国家情報戦略」を策定して具体的な方針を示すことで、国家意思の明確化だけでなく国民への周知と透明性向上に大きく寄与する。情報コミュニティーによる成果を積極的に発信することで、国民からの理解、協力が得られるようになる。国民から信頼される情報活動こそが国際社会での日本の国力向上につながる。
◇プライバシー侵害に懸念=青井未帆・学習院大教授
―法案の必要性は。
情報の集約化をさらに進めることになるので情報を使う側(政府)からすれば国家情報会議は欲しいだろう。だが、情報収集に絡みプライバシー侵害は問題になることが多い。懸念の方が大きい。
―政府は「無用なプライバシー侵害はしない」と説明している。
政府は組織をつくるだけで、権利を制約するものではないと説明している。しかし、組織や任務を定める規定が、実際には情報収集などの作用の根拠として用いられてきている。「権利制限を直接定めていないから問題ない」とは言えない。
―具体的にどういった侵害が考えられるか。
国民の表現活動や社会的活動が、国家安全保障や外国からの影響工作への対処と関連付けられるなら、情報収集されてしまう可能性がある。その恐れによって萎縮が生じないか。そうなると下手に行動できず、考えを示すこともできなくなる。
―法律が定める情報収集の範囲が広い。
対象を明確にすべきだ。(法律が調査対象と定める)安全保障やテロリズムといった「重要情報活動」には何でも入りそうで、かなり広い。現代はほぼ全ての産業が軍事と関わる。私たちの生活のかなり広い部分が潜在的には国家安全保障で語られる。どこまでが情報収集の対象となるのか予見できない。
―国民が予期しないところで情報収集の対象になる可能性がある。
広く情報収集・調査を行うことが政府の基本方針だ。潜在的な可能性はある。
―透明性をどう確保するか。
透明性は重要だ。複数の方法があってしかるべきだ。国会に透明性と判断の妥当性を事後的にでも検証できるような仕組みを設けるなど、国会の関与をもっと真剣に考えないといけない。判断の妥当性、検証の可能性、透明性の確保が最低限必要だ。
―スパイ防止法などの制定も焦点だ。
「組織をつくるだけ」と説明されても、いったん組織ができてしまった以上、さらにその活動を拡大する法制へと進まざるを得ないという手法だ。最初は組織をつくっただけかもしれないが、最終的には国家安全保障に国民を巻き込んでいくことにほかならない。
【時事通信社】
〔写真説明〕インタビューに答える前公安調査庁調査第二部長の平石積明氏=4月23日、東京都内
〔写真説明〕インタビューに答える学習院大の青井未帆教授=4月21日、東京都内
2026年05月06日 16時26分