誰もが抱える「家族」テーマに=緻密な物語紡いだ山田太一さん



タイトルに自身の名前を冠したドラマが放送される脚本家は少ない。その一人、山田太一さんは草創期からテレビドラマ界で活躍を続け、家族をテーマにした作品で一時代を築いた。

テレビドラマは物語の合間にコマーシャル(CM)が挟まる。その特性を生かすように、山田さんの脚本はCMが入るタイミングも考慮に入れて構成していた。出演俳優を想定し考え抜いて書かれたせりふはアドリブを許さず、ドラマのリズムをコントロールした。山田さんは「CMが入るなら、そこで物語の時間を経過させるのに使ったり、タッチを変えたりもできる」と語っていた。

そんな緻密で、高度な作家性を備えた作品には家族をテーマにしたものが多かった。山田さんは「多くの人にとって家族の物語はどこか自分とつながるところがあるから」と理由を説明し、「家族というのは生身で向き合う他者。家族の他者性に揺さぶられることがない物語はどこかひ弱な感じがする」と話していた。

ただ、「他者」は単に分かり合えない存在だと突き放すことはしなかった。東日本大震災を題材にしたドラマを構想中だった2012年の取材で「他者の苦しみは分からない。家族の誰かが腹が痛くても一緒に痛がることはできない。しかし、他者を抱えて生きている自分の、その限界を悲しむことはできる」と語っていた。

家族というフィルターを通し、人の悲しみや愛情といった心の動きに誠実に向き合った。その尊さを、多くの人が共感できるリアリズムによって描き続けた作家だった。

〔写真説明〕山田太一さん

2023年12月01日 16時46分


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