「警鐘鳴らしたい」=津波にのまれ生還―伝承館館長の及川さん、宮城・気仙沼市



2019年3月の開館以来、東日本大震災による被害の実相を伝え続ける宮城県気仙沼市の「気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館」の館長及川淳之助さん(70)は、津波にのまれながらも生還を果たした経験を持つ。津波の脅威を伝える展示物や、被害の爪痕を当時のまま残す気仙沼向洋高校の旧校舎と共に、及川さんは「津波被害の恐ろしさを伝え、警鐘を鳴らしたい」と話す。

南三陸消防署に勤務していた及川さんは発生時、非番で同市内の自宅にいた。揺れが収まると職場へ向かい、車の避難誘導などをした。「津波だ!」。背後にいた同僚の叫び声で振り返ると、黒い波が迫ってくるのが見えた。

とっさに消防署2階へ避難したが、庁舎が波に覆われたため、必死で外へ飛び出した。そのまま津波にのまれ、約3時間半にわたって漂流。約4キロ離れた町内の中学校に流れ着き救助された。消防署2階に避難した同僚3人は、命を落とした。

救助されてから5、6日たって、ようやく隣町の福祉施設で妻と再会。程なくして職場にも復帰したが、しばらくは強い頭痛に襲われる日々が続いた。及川さんは「同僚を失い、現実を受け入れられなかったから」と振り返る。

亡くなった同僚の遺族から「なぜ一緒に避難するよう声を掛けてくれなかったのか」と言われたことがあった。地震後に津波が来ることは予測されていたが、あれほどの規模だとは誰も思っていなかった。「想定外の津波が来たことを恨む」。及川さんは警鐘を鳴らし続ける必要性を強く感じた。

15年に定年退職し、「体験を語る場がほしい」との思いから、昨年4月に伝承館の館長に就任した。及川さんの活動は館内だけにとどまらず、市内の学校などでも日頃からの備えの重要性を伝えている。今月には初めて市外でも講演を予定している。及川さんは「震災の記憶を風化させないよう、当時の体験を語り継ぐことが生き残った自分の使命だ」と強調した。

【時事通信社】 〔写真説明〕「気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館」の館長を務める及川淳之助さん。震災の津波に巻き込まれた自身の経験を語り継いでいる=1月30日、宮城県気仙沼市

2025年03月12日 07時03分


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