チベット亡命社会の後継問題注視=ダライ・ラマが声明発出へ



【ダラムサラ(インド)時事】チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(89)が、近く自身の後継者の選出方法に関し声明を出す。亡命先であるインドのチベット人社会は、静かにその行方を注視している。

◇90歳前に決断か

柔和な表情に、本質を見透かすかのような眼光。正面に座っているのは「観音菩薩の化身」にして中国政府から「分離主義者」と敵視されるダライ・ラマだ。21日、居を構える北部ダラムサラの寺院で、国内外から集まった約300人が謁見(えっけん)を受けた。

側近に腕を支えられ、足取りはおぼつかない。それでも「インドから多くの慈悲の心を学んだ」としっかりした口調で参列者に語り、健在ぶりを示した。

7月6日に90歳となるダライ・ラマの動向に、改めて注目が集まっている。同2日にダラムサラで開かれる宗教会議で、後継問題を含むビデオメッセージを出す予定となったためだ。中国の干渉を懸念し明言を避けてきた後継選出の方法について、明確な方針が示されるとの観測が広がっている。

◇「私の全て」

故郷を追われ世界中に散らばったチベット人約15万人のうち、ダラムサラには約1万人が暮らす。同地で生まれ、雑貨店を営むテンジン・ラブディルさん(52)は「ダライ・ラマがいなければ、私たちは何もできない」と語る。祖父はダライ・ラマの亡命とほぼ同時期の1960年にインドへ逃れてきた。後継については「次に誰がなろうとも受け入れる」と冷静に話した。

4歳ごろインドに亡命した僧侶ドルジェ・テンジン・ツゥンドゥさん(49)は「ダライ・ラマは私の全て。グル(指導者)であり親であり友人だ」と表現する。「今は皆がトップを尊敬しているから、チベット人社会が回っている。もしいなくなれば衰退するかもしれない。だからこそ団結しなければならない」

◇中国の介入警戒

ノーベル平和賞受賞者でもある14世の存在の大きさは、後継問題を見守るチベット人社会にとって、懸念の裏返しでもある。幼少期にチベットから逃れてきた僧院の会計担当チャワン・ドルジさん(67)は「次に誰が選ばれたとしても、(14世と)同じようなカリスマは持ち得ないだろう」とこぼした。

チベット亡命政府のペンパ・ツェリン首相は「中国政府は今を生きるダライ・ラマより、まだ見ぬ15世(の誕生)を心配している」と指摘。かつてチベット仏教ナンバー2の高僧の死後、ダライ・ラマが認定した「転生者」とは別に中国が後継者を置いたことを挙げ、介入への警戒感をあらわにした。

【時事通信社】 〔写真説明〕インド北部ダラムサラで、謁見(えっけん)のため訪れた男性に言葉を掛けるチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(左)=21日(ダライ・ラマ事務所提供・時事) 〔写真説明〕インド北部ダラムサラで雑貨店を営むテンジン・ラブディルさん=20日

2025年06月30日 12時36分


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