【ワシントン時事】トランプ米大統領がパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長を解任する可能性があるとの報道をきっかけに、16日の米金融市場は混乱に陥った。トランプ氏が報道を否定したことで事態はいったん落ち着いたが、利下げを求めるトランプ氏に対し、高関税政策によるインフレを懸念して利下げに慎重姿勢を貫くパウエル氏という対立の構図に変わりはない。金融緩和を望む大統領と、介入にあらがい、独立性を死守するFRBとの闘いはこれまでも繰り返されてきた。
◇牧場に呼び出し
1965年12月、第36代大統領ジョンソンは、FRBが政策金利だった公定歩合を0.5%引き上げたことを、滞在していた南部テキサス州の自身の牧場で知り、激怒。マーチンFRB議長(当時)をすぐに呼びつけた。
身長190センチ超と大柄なジョンソンは、「ベトナムで若者が死んでいるのに、気にしないのか」とマーチンに怒鳴ったとされる。
ジョンソンはベトナム戦争拡大と、社会・福祉の拡充政策「偉大な社会」を同時並行で進めており、こうした中での利上げは財政を一段と圧迫しかねなかった。一方、財政拡大によるインフレを懸念したマーチンはひるまず、「法律では金利の責務はFRBにある」と突っぱねた。
◇突然の造反劇
第40代レーガンも、インフレ抑制を重視し、高金利政策を取るボルカーFRB議長(当時)に手を焼いた。ボルカーの回顧録によると、84年の大統領選前の夏、ボルカーはホワイトハウスでレーガン同席の下、政権高官に「大統領は選挙前に利上げしないよう命じる」と告げられた。ボルカーは無言で立ち去ったという。
その後の86年2月の会合で、突如利下げが提案された。ボルカーの反対にもかかわらず、レーガンが指名した理事らが次々と賛成。利下げが決まってしまった。怒ったボルカーは辞表を用意し始めたが、「造反」理事の1人が投票のやり直しを提案。利下げ決定は撤回され、ボルカーも辞任を思いとどまった。
米大統領とFRB議長という世界に大きな影響力を持つ両者の争いはこれまで、ほとんど「密室」で行われていた。しかし、トランプ氏の場合、SNSへの投稿や記者団の取材といったオープンな場で、「利下げが遅過ぎる」「すぐ辞任しろ」と連日のようにパウエル氏を攻撃している。白日の下で、両者の対立が進行するのは極めて異例で、金融市場を巻き込んだ攻防の行方は見通せない状況だ。
【時事通信社】
〔写真説明〕トランプ米大統領(右)とパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長(AFP時事)
2025年07月17日 20時32分