【ニューデリー時事】インド初の高速鉄道に新幹線方式の採用が決まってから約10年。29日の日印首脳会談で日本製の新型車両導入に向け協力することで一致した。しかし合意に至るまでの交渉は一時暗礁に乗り上げ、友好の象徴であるプロジェクトは「始まって以来最大の危機」(関係者)に陥っていた。
◇「創造的解決」
「日本側の厳しい状況は理解した。ここは『創造的解決』でいきましょう」。昨年9月、モディ首相は米国で会談した岸田文雄首相(当時)にそう持ち掛けたという。
高速鉄道の運行車両は現行の「E5系」が既定路線だったが、生産停止などで価格が高騰。納入の遅れも予想された。業を煮やしたインド側が割安な国産車両を投入する意向だと明らかになったのは翌10月だった。
当初見積もりで約1.8兆円とされた総事業費は膨張が見込まれ、その約8割を円借款で賄う。日本側には、巨費を投じ敷設した線路に日本製が走らなければ事業の成否が問われかねないとの思いがあった。インドの方針転換に戸惑いや反発が広がった。
苦い記憶もあった。インドネシアの高速鉄道事業で日本は土壇場で中国に受注をさらわれた。今度こそ失敗は許されなかった。
インドの関係筋は「新幹線への国民の期待は大きい。採用したいが、そもそも高速鉄道は採算の取れる事業ではない。金額が跳ね上がるようでは厳しい」と話す。日本側のコストを抑える努力が十分ではないとみる技術者もいたという。
◇起死回生
「(高速鉄道の)日本色が薄くなったとしても、日印関係は大事だ」。インドからのメッセージで日本側は危機感を高めた。「日本製が走らなければ日印関係がおかしくなる」。事態打開に向け担当者が何度もインドを訪れ、モディ氏につながるルートと接触を試みていた。「モディさんと直接話ができる政治家がいないのが問題」。そんなぼやきも漏れた。
昨年末ごろの実施が模索されていた首脳会談は車両を巡る方針の隔たりもあり延期に。次期車両「E10系」を両国でほぼ同時期に投入する案は、そうした中で日本の起死回生の一手だった。
2027年中を目指す部分開業時はインド製を走らせ、E10系が届き次第置き換える併用案に。一時かたくなだったインド側は今後建設する他の区間にも競争入札を前提に日本からの参入を促すようになった。
ただ、懸念もある。日本には、インドが車両を含むハード面のみを重視し、運行に関わる人材育成や維持管理を軽視しているようにも映る。日本の関係者は、新幹線の価値は運行速度だけでなく安全性にもあると指摘。それを支える人材教育の重要性を理解してほしいと語った。
【時事通信社】
〔写真説明〕東北新幹線の次期車両「E10系」の外観イメージ(JR東日本提供)
〔写真説明〕日印首脳会談前に握手する石破茂首相(右)とインドのモディ首相=29日午後、首相官邸
2025年08月30日 07時07分