
乗客乗員520人が犠牲となった日航ジャンボ機墜落事故では、墜落の衝撃や火災により、遺体の一部が欠けたり炭化したりした。対応のため派遣された看護師は、こうした部分を段ボールや綿で形作り、生前の姿に近づけた。発生から41年。「整体」と名付けられたこの行為への思いは、体験者により次世代へと受け継がれている。
1985年8月12日の事故から約2週間後の2日間、日本赤十字社医療センター(東京都渋谷区)に勤務していた元看護師の山本富美子さん(82)は、遺体が運び込まれた群馬県藤岡市内の体育館へ派遣された。入り口の暗幕を通ると「ズシッと肩に重いもの」があった。「心に残っている。ご遺体の魂なのではないかと感じた」
体育館のステージの手前にはひつぎが整然と並んでいた。身元が判明した遺体を家族に引き渡す作業が続いていた。
遺体の手だけを家族に引き渡す必要が出た際、同センター看護婦長だった故金田和子さんの提案で、段ボールや綿などを使って体を形作った。また、「遺体の娘に着物を着せたい」との要望があれば、同様に形作った。金田さんが「整体」と命名したこの行為に関し、山本さんは「亡くなった方とその家族の尊厳を守るという意味で良かった」と振り返る。
職場に戻ってからは、体験を心の中に閉じ込めた。一緒に行った仲間も一様に口をつぐんだ。山本さんは「重い心がどうしても残った。それだけ残酷な事故だった。二度と起こってほしくない」と語る。
ただ金田さんは生前、「『整体』を広めてほしい」と訴えており、山本さんも「彼女の思いを受け継ぎ、残さなければ」と考えた。そうした中、日本赤十字看護大(渋谷区)の内木美恵教授(災害看護学)に頼まれ、2021年から年に1~2回、授業で事故の体験や整体について伝え始めた。
整体を教えるに際し、使う人形は「人」のように丁寧に扱う。学生の手が人形の顔の前を横切ると注意し、厳しく指導する場面もある。
内木教授は「整体で重要なのは、体を作る行為よりも『看護の姿勢』だ」と強調。患者への日頃の姿勢は、災害現場では如実に現れる。「命の終わりが看護の終わりではなく、その人がいると捉え、誠心誠意対応すれば看護が生まれる」と話す。山本さんも「学生には『救護は心。知識や技術、感性を身に付けて』と伝えていきたい」と語った。
【時事通信社】
〔写真説明〕授業で学生に「整体」を教える山本富美子さん=2月13日、さいたま市中央区(左手前、日本赤十字社提供)(一部画像処理してあります)
2026年08月13日 14時30分