
8月3日に行われた陸上の富士北麓ワールドトライアル男子100メートル予選。桐生祥秀(日本生命)は力みのない伸びやかなフォームで駆け抜けた。9秒99。自身8年ぶり2度目の9秒台で復活を示し、満面の笑みで両拳を突き上げた。
このレースは8年前に日本人で初めて10秒の壁を破る9秒98を出した走りと共通点があった。それは「47歩」で走り切ったこと。10秒23で優勝した7月の日本選手権決勝は48歩だった。「47歩でゴールできればタイムが上がる」。9秒台を出すためのカギはストライド(歩幅)にあると分析していた。
ストライドが伸びた理由は幾つか考えられるが、近年苦しんでいたアキレス腱(けん)痛が和らいだのが大きい。ジャンプ系のトレーニングを積めるようになり、一歩の出力が増した。日本選手権後の練習では、スピードを上げたまま片足ずつ弾みながら前へ進む「スピードバウンディング」に取り組んだ。
私生活から徹底して厚底の靴を履き、大きな反発を得られる厚底スパイクにも適応。「(レースの)中盤、顔を上げた瞬間に加速する」感覚をつかんだという。30~60メートルの2次加速局面で、強みである高速ピッチと大きなストライドを組み合わせた理想的な走りができた。小島茂之コーチは「桐生の良さは高いピッチ。同じピッチでストライドが伸びれば、その分タイムにつながる」と語る。
9月の世界選手権東京大会は無念の予選敗退。力みが生まれ、48歩を要した。30歳になって迎える来季の目標は9秒95の日本記録更新。日本最速の称号を奪い返すには、ストライドの伸びが欠かせない。
【時事通信社】
〔写真説明〕世界陸上男子100メートル予選、力走する桐生祥秀(左)。右は米国のライルズ=9月13日、東京・国立競技場
〔写真説明〕陸上の富士北麓ワールドトライアル男子100メートル予選で9秒99をマークした桐生祥秀=8月3日、山梨・富士山の銘水スタジアム
2025年12月25日 07時07分