揺らぐ「ナチスの反省」=極右台頭、硬直化批判も―移民との歴史共有に課題・ドイツ戦後80年



【ベルリン時事】8日に欧州での第2次大戦終結80年を迎えるドイツで、戦後社会に定着した「ナチスの反省」が揺らいでいる。愛国的な歴史観を要求する極右が支持を伸ばす一方、左派の間では増加する移民の視点を重視し、ナチスだけでなくドイツ帝国による植民地支配の歴史にも目を向けるべきだとの声が高まっている。犠牲者を追悼する節目が「花を手向けるのではなく、論争の場」(週刊紙ツァイト)となっている。

◇「良い面も」増加

「ナチスを思い起こさせ続けることが、健全な国民意識の醸成を阻んでいる」。ツァイトが1月に実施した世論調査では、59%がこうした考えに同意すると回答し、2010年の44%から増えた。「『ナチスの過去』に終止符を打つべきだ」「ナチスには良い面もあった」といった意見に同意する割合も、増加傾向にある。

そうした主張の発信源の一つが、反移民を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」だ。党内実力者のヘッケ・テューリンゲン州代表は、過去に「記憶に関する政策を180度転換しなければならない。必要なのは先祖の偉大な功績に触れることだ」と訴えている。

AfDは移民流入や経済不振、安全保障の動揺といった情勢の変化に不安や不満を持つ人々に「過去への回帰という夢物語」(マインツ大の政治学者)を売り込み、支持を拡大。今年2月の総選挙で連邦議会(下院)第2党に躍進した。

◇「負の歴史」に焦点を

ドイツは戦後、トルコを中心に外国人労働者を受容。近年もシリアやウクライナなどから多くの難民を受け入れ、人口の4分の1は移民やその子孫だ。国民の多様化が進む中、移民との融和を唱えるリベラル層からも、「ナチスの反省」を絶対視する歴史認識の「硬直化」をただす声が上がっている。

そうした主張を踏まえ、独政府は昨年2月、ナチスや旧東独時代に加えて、植民地支配の「負の歴史」にも文化政策の力点を置くことを提案した。だが、「ナチスによる犯罪の矮小(わいしょう)化」につながると猛反発を受け、撤回に追い込まれた。

ベルリン自由大学のゼバスティアン・コンラート教授(歴史学)は、こうした傾向について「(ナチスを反省する文化が)固まって動かせなくなっている」と指摘。歴史認識が「政治的な手段として利用されている面もある」と懸念を示す。

ドイツでは戦後当初から「ナチスの反省」が浸透していたわけではなく、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の実態が徐々に明らかになり、対外関係の修復が国家課題となる中で市民権を得てきた。しかし、大戦を知る世代が少なくなり、社会の多様化も進む中、それだけで社会を包摂することが難しくなっている。コンラート氏は「ナチスだけに焦点を当てるのは不十分だ」と見直しを求めている。

【時事通信社】 〔写真説明〕ドイツ総選挙の結果に笑顔を見せる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のワイデル共同党首(中央)とヘッケ・テューリンゲン州組織代表(右)=2月23日、ベルリン(EPA時事) 〔写真説明〕ポーランドを公式訪問し、ユダヤ人ゲットー跡の慰霊碑にひざまずく西ドイツのブラント首相(AFP時事) 〔写真説明〕ベルリン自由大学教授のゼバスティアン・コンラート氏=4月30日、ベルリン

2025年05月08日 12時26分


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