政党要件を満たす全党が参戦した参院選東京選挙区。国民民主党は好調な支持率を背景に強気の2候補擁立に踏み切ったものの、間もなく追い風は弱まった。その後も誤算が続き、党の現状を象徴するように不透明感の漂う中での戦いを強いられている。(敬称略)
◇「山尾ショック」
「2人も通らないと言われるが、そんなことはない。2議席取るぐらいじゃないと日本の政治は変わらない」。国民民主代表の玉木雄一郎は公示日の3日、有楽町で声をからしてこう訴えた。
昨秋の衆院選で4倍増の28議席へ躍進。今春まで報道各社の世論調査で立憲民主党を上回る支持率を記録した。
4月下旬、非改選の欠員補充を含め7人が選ばれる東京選挙区に、ともに新人の元アナウンサー牛田茉友と元会社員奥村祥大を立てると発表した。まだ波に乗っていた頃だ。党幹部は「2人当選は可能」と自信を見せた。
ところが、過去の不倫疑惑がくすぶる元衆院議員山尾志桜里を比例代表に擁立する方針が報じられると、支持率は急落。政府備蓄米を「動物の餌」と表現した玉木の失言も重なった。6月に入り山尾の公認は見送ったが、勢いはかつてほどには戻らない。
牛田らは街頭で、山尾を巡る騒動について有権者から非難の言葉を何度か浴びた。ビラは100枚配って、受け取ってもらえるのは5枚ほど。6月の都議選期間中、党の候補に付いて都内を駆け回ったが、手応えは薄い。陣営幹部は「こんなはずではなかった」とため息を漏らした。
◇ダークホース
国民民主失速を尻目に支持率を伸ばしたのが参政党。3日、代表の神谷宗幣が銀座で「日本人ファーストだ」と力説すると、集まった聴衆は「そうだ」と沸き立った。
歌手で新人のさやはSNS重視の戦術を取る。国民民主との共通点と言え、両党は支持層も一定程度重なる。
参政は都議選で3人が当選し、初めて議席を得た。少し前までの国民民主票が流れたと分析されている。「ダークホースが登場した」。国民民主関係者は表情をこわばらせた。
◇落とし穴
国民民主の拡大路線は、国政選挙で連携してきた地域政党「都民ファーストの会」とのあつれきを生んだ。都議選で都民ファの反発を押し切る形で公認・推薦候補を積極的に擁立。その結果として一部の現職にまで落選者が出た、というのが都民ファの言い分だ。
都民ファは東京選挙区で特定候補を支援しないと決めた。関係者は「激しく争った。もう応援したくないと思う人が多い」と明かす。牛田と奥村の事務所に都民ファ都議の「為書(ためがき)」はない。「祈必勝」と大書するポスターのことだ。
最大の支持組織、連合との関係も微妙だ。立民との連携に背を向ける玉木らの言動を「てんぐになっている」と憤る幹部は多い。産業別労働組合(産別)の候補以外に対しては支援の熱量が低い。
山尾は一連の経緯に反発して離党届を出し、無所属で東京選挙区に出馬した。国民民主2陣営の票を数万ほど奪うとの見方もある。
東京選挙区には自民党が現職武見敬三、新人鈴木大地、立民がともに現職の奥村政佳、塩村文夏を擁立。公明党新人の川村雄大、日本維新の会元職の音喜多駿、共産党現職の吉良佳子、れいわ新選組新人の山本譲司らも立候補した。
【時事通信社】
〔写真説明〕参院東京選挙区候補者のポスター=4日、東京都墨田区
〔写真説明〕参院選の街頭演説を聴く人たち=3日、東京都千代田区
2025年07月06日 06時57分