
途上国に派遣され、現地の発展に貢献する「海外協力隊」が発足から60年を迎えた。累計で5万8000人超が99カ国で活動してきたが、近年は隊員数が減少。開発協力に対する国民の関心や認知度の低下が拍車をかけているとみられ、担い手の確保が課題となっている。
国際協力機構(JICA)は13日、協力隊発足60周年を記念する式典を東京都内で開いた。田中明彦理事長は「複合的な危機に直面する今日、協力隊の重要性は一層高まっている。世界の友好関係の深化に寄与し、さらなる発展に取り組む」と表明した。
協力隊は1965年4月に「青年海外協力隊」として発足した。初の隊員派遣は同年12月のラオス。相手国のニーズに合わせ、農林水産や保健衛生、行政、スポーツ・文化など幅広い分野で人材を送り出してきた。
ピーク時の2005年度には2000人に達したが、10年度以降は徐々に減少。新型コロナウイルス禍を経て、23、24年度は1000人ほどにとどまった。協力隊事務局の担当者は「途上国側からの派遣要望に応えることができない現状だ」と頭を悩ませる。
事務局によると、海外でボランティア活動をする場合のルートが民間に広がり、JICAの協力隊事業以外にも希望者の選択肢が生まれたことが担い手不足の一因とみられる。政府開発援助(ODA)に対する批判など、開発協力自体への世論の厳しい視線が背景にあるとの指摘も出ている。
JICAは協力隊をPRするため、現地で培った知見を生かして日本で社会的な課題の解決に貢献した帰国隊員を表彰する取り組みを23年に始めた。24年には起業支援に乗り出し、国内への還元を後押ししている。
60年にわたる草の根レベルの人的交流は各国との関係を重層化しており、政府関係者は「首脳会談の場でも協力隊の話が出ることがある」と明かす。茂木敏充外相は14日の記者会見で、「日本らしい開発協力で得られる相手国の信頼はかけがえのない財産だ。日本の信頼向上を通じて国益にもつながる」と強調した。
【時事通信社】
〔写真説明〕海外協力隊発足60周年記念式典でパフォーマンスを行う帰国隊員ら=13日、東京都千代田区(JICA提供)
〔写真説明〕海外協力隊発足60周年記念式典で式辞を読み上げる国際協力機構(JICA)の田中明彦理事長=13日、東京都千代田区
2025年11月15日 14時37分