
【ワシントン時事】トランプ米大統領は、米半導体大手エヌビディア製の人工知能(AI)半導体に関し、中国への輸出を認める方針を決めた。実利を優先し、中国に配慮した形だ。一方、中国軍機によるレーダー照射など軍事的威圧に直面する同盟国・日本と積極的に足並みをそろえる姿は見えない。中国の習近平国家主席との交渉を重視し、同盟軽視の姿勢が強まっている。
「習主席は前向きに反応した!」。トランプ氏は8日、エヌビディアの前世代型の先端半導体「H200」の輸出を許可するとSNSで発表した。米国の雇用を支え、製造業の強化につながると説明し、政策決定の正当性を強調した。
「H200」は、エヌビディアが製造するAI半導体「ブラックウェル」の前世代型モデルで最新の技術ではない。ただ、中国で入手可能な「H20」の約6倍の性能を持ち、米国が中国を上回る技術上の強みを持つ製品だ。
中国を「戦略的競争相手」と位置付けた第1次トランプ政権、バイデン前政権は半導体技術の軍事転用など安全保障上の懸念から対中輸出規制を強化。半導体製造装置で強みを持つ日本やオランダといった同盟国にも輸出規制強化を求め、中国への技術流出に目を光らせてきた。
しかしトランプ氏は売り上げの25%を米政府に支払うことを条件に中国への販売を容認。バイデン前政権下で国家安全保障会議(NSC)高官を務めたラッシュ・ドーシ氏は「ここ7年で最も重要な技術政策上の転換だ」と語り、影響の大きさを強調する。
米外交問題評議会(CFR)のマイケル・ホロウィッツ上級研究員は「全てはカネ次第ならば同盟国が輸出規制に前向きに取り組むかは不安が残る」と話す。中国専門家のジョージタウン大のデニス・ワイルダー教授も「先端半導体への中国のアクセスを制限する政策を同盟国に説明する義務がある」と語る。
トランプ氏の足元を見透かすかのように、高市早苗首相の台湾有事に関する発言を受け、習政権は対日圧力を強める。だが、トランプ政権の反応は鈍い。米国務省報道担当官が「中国の行動は地域の平和と安定に資するものではない」と表明したのは中国軍機が自衛隊機にレーダー照射した3日後の9日。トランプ氏自身は態度を明確にしていない。
バイデン前政権下で国務次官補(東アジア・太平洋担当)を務めたクリテンブリンク氏は9日、シンクタンクで演説し、日中間の緊張緩和に向け、米国が役割を果たすべきだと訴えた。「米中和解が日本の犠牲の上に成り立つことがあってはならない」と警鐘を鳴らしている。
【時事通信社】
〔写真説明〕トランプ米大統領=8日、ワシントン(AFP時事)
〔写真説明〕バイデン米前政権下で国務次官補(東アジア・太平洋担当)を務めたクリテンブリンク氏=2023年1月、マニラ(AFP時事)
2025年12月11日 07時42分