
京都大の北川進特別教授(74)が開発した「金属有機構造体(MOF)」は、ナノサイズ(ナノは10億分の1)の穴の中に狙った気体を取り込んで分離・貯蔵することができる。近年では、プラスチックのリサイクル促進や、都市ガスが普及していない途上国での活用など、社会問題の解決に向けた応用研究や実用化が進められている。
MOFなど無数の穴を持つ物質は多孔性材料と呼ばれる。その歴史は古く、代表的な活性炭は3500年以上前の古代エジプトまでさかのぼる。天然鉱物「ゼオライト」は触媒などとして幅広く利用されているが、MOFは穴の大きさが均一で、自由自在に変えられる点が特徴だ。これまでに13万種類以上が開発されている。
北川さんの研究室では、プラスチックの原料となるオレフィンから不純物を取り除くMOFを開発。また、水と性質が近い「重水」を効率よく分離できるMOFの生成にも成功した。この技術を応用すれば、東京電力福島第1原発の処理水に含まれるトリチウム(三重水素)の分離が期待できるという。
世界初の実用化は英国企業で、果物の熟成や腐敗を促進するエチレンガスの働きを抑える物質をMOFに貯蔵させ、9カ月間鮮度を保つ製品を2016年に発表した。現在では、世界で50社以上のスタートアップ企業がしのぎを削っているという。
京大の樋口雅一特定拠点准教授が創業したアトミス(神戸市)では、MOFを活用してガスを圧縮・貯蔵するボンベ「キュビタン」を開発。都市ガス網が整備されていないインドネシアで実証実験が進められている。
同社の浅利大介最高経営責任者(CEO)は「インドネシアの事業は27年度にも収益化を目指したい。潜在的なニーズを探して事業化を進めたい」と意欲を見せる。
【時事通信社】
〔写真説明〕金属有機構造体(MOF)を活用して小型・軽量で効率的にガスを運べる次世代型ボンベ「キュビタン」=11月5日、京都市左京区
2025年12月11日 12時40分