
終戦後、旧満州(中国東北部)などから戻った人に国や自治体が用意した「引き揚げ者住宅」が、姿を消しつつある。一方、かつての住宅を振り返る展覧会や家屋のリノベーションといった継承事業も行われており、専門家は「当時の苦難を追体験できる保存方法が望ましい」と話している。
仙台市青葉区の「追廻住宅」は戦後間もなく、旧陸軍の施設跡に建設された引き揚げ者住宅の集まりだ。約600戸の木造家屋が並び、最大4000人ほどが暮らした。
建設を担った国の機関が1946年末に解散すると住民は建物を買い取り、国に借地料を払いながら住み続けた。市の公園化計画を機に立ち退きを迫られ、長年の協議を経て2023年2月に最後の1軒が解体された。
ただ歴史を振り返る動きもあった。市の生涯学習施設「せんだいメディアテーク」は同年冬、追廻住宅をテーマにした展覧会を開催。実寸大の住宅模型や当時の町の写真に加え、元住民の話を記した立て看板を配置した。企画者の甲斐賢治さん(63)は「来場者が住民と出会うような体験を目指した」と話す。
来場者アンケートには200件を超える感想などが寄せられた。甲斐さんは「追廻はつい最近まで息づいていた場所。自由な解釈を通じて記憶に残してほしい」と語る。
改修により、当時の住宅街の面影が残る地域もある。福岡市中央区六本松には、旧満州などからの引き揚げ者向けの木造長屋が多く建てられた。当時の建物は増改築を繰り返し、現在も多数残っている。
建築事業などを行うアポロ計画(同区)は、これらの建物のリノベーションを6年前から進める。松山真介代表取締役(58)は「壁は板やトタンなどが継ぎはぎになっており、建設当時の資材不足がうかがえた。図面もなく一から設計したが、特に給排水設備の修繕に苦労した」と話す。建物は現在、テナントとして運営されている。
関西学院大の島村恭則教授(現代民俗学)は「身近な団地や商業施設が建つ土地にも、引き揚げ者住宅の歴史が隠れていることがある」と指摘。「住宅模型や生活物品の展示など、当時の苦難を追体験できる保存方法も大切ではないか」と話している。
【時事通信社】
〔写真説明〕追廻住宅の歴史を振り返る展覧会で展示された当時の写真や住宅模型(せんだいメディアテーク提供)
〔写真説明〕引き揚げ者住宅をリノベーションしたテナント(アポロ計画提供)
2026年08月14日 14時32分