米国の経済・文化の中心地ニューヨーク。新型コロナウイルスが猛威を振るい、市内では2万3000人を超える命が失われた。8月以降は1日当たりの死者数がほぼ1桁台に抑えられ、最悪期は脱したかにみえる。しかし、渡航規制により外国人観光客頼みの業界は困窮。特に飲食店からは厳しいコロナ対策への恨み節が漏れる。この国の針路を決める大統領選を前に、市中心部で人々の生の声を拾った。
◇劇場も休演
中心部マンハッタンの定番観光スポット「タイムズスクエア」。10月中旬の晴れ渡った週末、地元の家族連れやカップルらが多く行き交い、数々の大型スクリーンには色とりどりの映像が流れる。だが、人が密集しがちなこの場所は、もちろん安全対策の対象。年末恒例の年越しイベントはバーチャル開催が決まり、この地の代名詞とも言えるブロードウェー公演は来年5月末まで休止となった。
「売り上げは最悪。同時多発テロの直後でさえ、これほどひどくなかった」。大通りの歩道の端に年代物の広告看板などの売り物を並べ、客を待つアフリカ・セネガル出身の露天商アマドゥ・ドワイエさん(58)はうな垂れる。「朝から夜遅くまで1週間働きづめだ」と自嘲気味に笑いながらも、大統領選の話になると「今はみんなが協力する時期。次の大統領に望むのは、それを確実にすること」と力を込めた。
◇飲食業界に漂う絶望感
観光客の落ち込みは飲食業界を直撃している。近くのメキシコ料理店では、週末の午後1時に屋外席で男性が黙々と食事を取っていた。他の客は見当たらない。接客係で南米ペルー出身のデイジー・ステラさん(29)はあきらめ顔だ。「2年半ここで働いているけど、(ミュージカル目当ての)観光客がたくさんいた。今はゼロ」と力なく話した。
安全対策と経済活動の両立は世界的な課題。市では3月中旬から禁止されていた店内飲食がようやく9月末から再開された。ただ、客を席数の25%に制限する条件付き。イタリア出身で、イタリア料理店を欧米などで展開するラファエル・ルジェーリさん(48)は「客席数の50%での営業では、なぜ駄目なんだ」と不満をぶちまける。
ルジェーリさんは、次の大統領には規制緩和の働き掛けを望むものの、それ以上に求めるのが危機下での国民の「結束」だ。「白人と黒人、ユダヤ人…警察とデモ隊。この国は、みんなが争っており、分断されている」と嘆く。激しい選挙戦を繰り広げるトランプ大統領とバイデン前副大統領の両者に対しては「どちらも良い候補と思えない」と投げやりな様子で、その言葉からは今後も容易に変わらぬ状況への絶望感がにじんでいた。
【時事通信社】
〔写真説明〕17日、米ニューヨークのタイムズスクエア
〔写真説明〕欧米などでイタリア料理店を展開するラファエル・ルジェーリさん=10日、ニューヨーク
2020年10月22日 16時58分