平和の祭典に暗い影も=ロシア勢のパリ五輪容認―複雑なウクライナ



ロシアによるウクライナ侵攻の影響は今夏のパリ五輪にも及びそうだ。国際オリンピック委員会(IOC)は昨年12月、ロシアと同盟国ベラルーシの選手に関し、個人競技に限り、国を代表しない「中立の個人資格選手(AIN)」として参加することを認めた。

2年前の侵攻直後、IOCはロシアとベラルーシについて国際大会除外の立場を取った。しかし、国連人権理事会から国籍を理由とする除外に「深刻な懸念」を示されて方針転換。昨年3月には、「中立」な立場の個人などの条件付きで国際大会への復帰を認めるよう各国際競技団体(IF)に勧告した。

当初は多方面から反発を受けたが、多くのIFがロシア勢を条件付きで受け入れ、大会が開催されるうちに反対の声は小さくなった。パリ五輪に関する決定も、状況を踏まえれば自然な流れといえる。

ウクライナにとっては複雑だ。クレバ外相はロシア勢の五輪参加容認を「恥ずべき決定」と非難し、ロシアが選手をプロパガンダの道具として利用すると主張した。

ウクライナの選手は、侵攻による被害を受け続けている。空爆で練習を中断することもあり、競技に集中できる環境にない。2月の柔道グランドスラム・パリ大会に出場した男子選手は「良くない状況。でも自分たちの力ではどうすることもできない」と苦しい胸の内を明かした。

IOCのバッハ会長は「いかなる選手もパスポートを理由に競技参加が妨げられてはならない」と主張してきた。スポーツと政治は切り離して考えるとの姿勢だが、そうもいかない現実がある。

侵攻を支持しない、軍関係者でないなどAINの条件を満たすかどうかの判断も難しい。2月にはウクライナ・オリンピック委員会が、中立違反の選手がいるとして、選手のリストや証拠写真などをIOCに送って調査を依頼。IOCは独自に設置する委員会で審査するとされるが、どこまでやれるかは未知数だ。

パリ五輪に向け、現状ではパレスチナ情勢がむしろ不安視されている。フランスは移民が多く、イスラム圏で何かが起きれば、それに影響され国内の治安が不安定になることが多いためだ。

それでも、五輪が始まればウクライナ侵攻の影響は浮き彫りになるだろう。ウクライナの選手がロシア、ベラルーシの選手と対戦した際、握手を拒否する場面は国際大会で珍しい光景ではなくなった。残り5カ月で状況は変わりそうもなく、「平和の祭典」で世界中が暗い影を見ることになるかもしれない。

【時事通信社】 〔写真説明〕131回IOC会議後、バッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長の隣で五輪開催を喜ぶパリのイダルゴ市長(左)=2017年9月、リマ(AFP時事) 〔写真説明〕パリのイダルゴ市長(左)とロサンゼルスのガルセッティ市長(右)と並ぶバッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長(中央)=2017年9月、リマ(AFP時事) 〔写真説明〕凱旋(がいせん)門が映り込んだ窓に描かれたパリ五輪のロゴマーク=2023年12月、パリ(AFP時事)

2024年02月21日 15時33分


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