
年間8万人以上が来館する東日本大震災・原子力災害伝承館(福島県双葉町)の語り部、泉田淳さん(66)は、元小学校教員として、子どもたちと向き合った被災体験を伝えている。昨年からは、同館で唯一、英語での講話も担当するようになった。
教員を定年退職した2020年、伝承館が開館した。震災で亡くなった子どもたちのことを思い、「伝えていきたい」と語り部活動を始めた。
「生きたくても生きられなかった子どもたちの冥福を祈って、よければ一緒に目をつぶってください」。講話は10秒間の黙とうから始まった。重いテーマだが、写真や思い出の品を示しながらテンポよく進める。「揺れが襲い、柱にしがみつかないと立っていられない。想像してください」。子どもたちの反応も良いという。
原発事故でふるさとを離れ、長期の集団避難生活を余儀なくされた教え子たちのことも話す。双葉町から埼玉県に避難した小学生が新しい土地に慣れず、大きな音がすると固まって泣いたり、友達ができず不登校になったりした話も伝える。
海外からの研修や団体客に英語講話もする。語学が得意だったわけではないが、外国人来館者が増えていると聞き、「面白そう」と福島県が開設した英語の伝承講座に応募した。通訳を通じた日本語の説明では、伝える内容も時間も限られるもどかしさもあった。
伝わっているか不安に思うこともあるが、「心が動いた。ハグしていいか」などと話し掛けられると手応えを感じる。「何かの役には立っているのかなと思った。ドキドキしちゃうけど」と泉田さんは笑う。
月の来館者の1割を占めることもあるインバウンド客に対応するため、県は24年度、英語の伝承講座を設け、人材育成に乗り出した。ただ、伝承館の語り部の約8割は60歳以上で、新たに語学に挑戦する人は少なく、泉田さんに続く英語の語り部はまだいない。
「(語り継ぐため)本当に悲惨だったことを話すのが一番伝わると思うが、僕にはまだできない」。気持ちの整理がつかず、いまも話せない体験もあるという泉田さん。震災の記憶に向き合い続ける。
〔写真説明〕東日本大震災・原子力災害伝承館で語り部として活動する泉田淳さん=1月29日、福島県双葉町
〔写真説明〕東日本大震災・原子力災害伝承館で語り部として活動する泉田淳さん=1月29日、福島県双葉町
〔写真説明〕東日本大震災・原子力災害伝承館で語り部として活動する泉田淳さん=1月29日、福島県双葉町
2026年03月11日 08時22分