
俳優、作家として活躍した岸恵子さん。2021年、自伝の出版を機に自宅でインタビューに応じてくれた。「人生は決断の連続。いつも自分に正直に、『今』を懸命に生きてきた」。穏やかな表情と柔らかな声が印象的だった。
壮絶な戦争体験を経て、10代で銀幕デビュー。「君の名は」など数々の映画に出演し、スターの地位を確立した。華やかな映画界は魅力的だったが、「女優だけに埋没するのは嫌だった」。その思いは、やがて自らを執筆活動へと駆り立てた。
フィクションからノンフィクションの世界へ―。危険と隣り合わせの紛争地帯にも足を運び、イスラエルでは過激派の襲撃も受けた。それでも「世界で起きていることを自分の目で見て書きたい」という衝動は抑えられなかった。
「決断」には苦悩が伴う。結婚に伴いパリに移住したのが人気絶頂期の24歳で、慣れない生活に苦しんだ。日仏間の法律的な事情から、一人娘の日本国籍が取得できず、複雑な心境にも陥った。「思い立つとすぐ行動してしまう。後で散々反省する」と苦笑しつつ、多くの決断、そして出会いが「与えてくれたものは大きい」と強調した。
「世界の出来事に関心を持ち、どんどん自分を打ち出してほしい」。次代を担う若者にも熱いまなざしを向けた。「かしこまっているだけでは何も変わりませんから」。気品をたたえた語りに、経験に裏打ちされた深みが宿っていた。
〔写真説明〕岸恵子さん
2026年08月19日 20時39分