消せぬ「戒厳」の影=市民に渦巻く与党批判―韓国・光州



1987年の韓国民主化後、初めて出された尹錫悦前大統領による「非常戒厳」宣言は、半年後となる大統領選(6月3日投開票)に依然として大きな影を投げ掛けている。戒厳下で民主化を求めた闘いの記憶が色濃く残る南西部・光州市では、力で反対勢力をねじ伏せようとした尹氏や尹氏を支えた保守系与党「国民の力」への批判が渦巻いていた。

◇金氏式典出席できず

「早く内乱が清算されてほしい。金文洙がいる党は絶対に駄目だ」。18日、同市の広場で集会に参加していた大学生の女性(21)は、与党候補の金文洙前雇用労働相(73)について尋ねると語気を強めた。

この日は80年に軍が民主化を求めた市民らを弾圧し、160人以上が死亡したとされる「光州事件」の始まりから45年の節目。尹氏の非常戒厳は受け継がれてきた悲劇の記憶を改めてよみがえらせた。金氏は18日当日の政府主催の式典には出席せず、犠牲になった市民らが眠る墓地を17日、個別に参拝したが、反発を恐れ式典に出られなかったのが実情だ。

金氏はもともと労働運動家で、光州で収監された経験もある。ただ、転向してからは右派政治家の道を歩み、尹氏の弾劾(罷免)に一貫して反対の立場を表明。それによってコアな保守層から支持を集め、党の予備選を勝ち残った。光州の人々の目には、尹氏と一心同体と映る。

さらに、金氏の選対幹部に光州事件で弾圧に関与した当時の軍幹部を起用しようとして撤回に追い込まれたことも市民らの強い反発を招いた。

女性は17日、金氏が墓地の敷地内に入るのを防ごうと、抗議活動に参加した。「(金氏は)光州事件についてまともな考えを持った人ではない。(参拝は)政治的なパフォーマンスだ」と憤った。民主化運動の中心となった広場で追悼公演を見ていた80代男性は「(尹氏のような人が)再び政治権力を握ってしまっては困る」と語った。

◇「李氏一強」に懸念も

金氏は最近になり、戒厳宣言について「心からおわびする」と国民に謝罪したものの、尹氏を党から除名する決断は下さなかった。別の大学生の女性(25)のように、謝罪は「本心ではない」と疑う見方が支配的だ。金氏を担がざるを得なかった与党は、尹氏の呪縛から逃れられないまま苦しい選挙戦を強いられている。

光州事件は80年代に民主化運動が盛り上がるきっかけになり、光州市を含む全羅道地域は革新系の地盤。それだけに、革新系最大野党「共に民主党」の李在明前代表(60)を支持する声がもっぱらだ。

ただ、軍事独裁の痛みを知る同市では、李氏による強権的な政治への懸念も聞かれた。光州事件の資料館で働く50代の研究員の女性は「李氏にも問題がある」と指摘。同党が李氏の一強体制に陥っていることを挙げた。40代の研究員の男性は、保守と革新がいがみ合う政治そのものを批判。「尹氏は相手を批判してばかりで結局戒厳を起こした」と述べ、次期大統領には「妥協や対話する努力が必要だ」と求めた。(光州=韓国=時事)。

【時事通信社】 〔写真説明〕光州事件の犠牲者を追悼する国立墓地=18日、韓国南西部・光州市 〔写真説明〕韓国南西部・光州市の国立墓地で、光州事件の犠牲者を追悼する市民ら=18日 〔写真説明〕光州事件の犠牲者が眠る国立墓地を参拝する金文洙前雇用労働相(手前右)=17日、韓国南西部・光州市(EPA時事) 〔写真説明〕光州事件当時の弾痕が残る「全日ビル245」。「投票が力です」という垂れ幕が掛けられていた=18日、韓国南西部・光州市

2025年05月22日 07時08分


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