東京電力福島第1原発事故を巡り、東電の旧経営陣に23兆円余りを会社に賠償するよう求めた株主代表訴訟の控訴審判決が6日、東京高裁で言い渡される。原告の一人で福島原発告訴団団長の武藤類子さん(71)=福島県三春町=は「原発を扱う企業の経営者が負っている責任の重大さを考えて判断してほしい」と願う。
一審東京地裁は2022年7月の判決で、津波地震を予測した政府機関の「長期評価」には相応の科学的信頼性があり、原発事業者の取締役に津波対策を義務付けるものだったと指摘。「津波対策を取れば事故を防げた可能性は十分にあった」とし、旧経営陣5人のうち小森明生元常務以外の4人に計13兆3210億円の賠償を命じた。判決を不服として旧経営陣側と株主側の双方が控訴した。
一方、元副社長2人と勝俣恒久元会長=昨年10月死去=が業務上過失致死傷罪で強制起訴された刑事裁判は、長期評価の信頼度が低いとして津波の予見可能性を否定し、無罪とした判決が3月に最高裁で確定。刑事責任は誰も負わないまま終結した。武藤さんは「同じような事故を起こさないために、事故を起こすと責任が問われることを裁判所が示してほしかった」と残念がる。
事故の影響で、自身が経営していた喫茶店も廃業を余儀なくされた。「責任の所在がはっきりし、心からの謝罪がなければ、どんなに経済的な復興があっても被害者の気持ちは置き去りのままだ」と訴える武藤さん。一審で旧経営陣の責任が認められた今回の訴訟は「一つの希望」だという。
昨年10月には現地で進行協議が行われ、木納敏和裁判長らが福島第1原発構内を視察した。「直接の原因だけでなく、事故がどれだけの人に影響を及ぼしたのか、被害の実相をより理解してもらえたのではないか」と手応えを語る。
事故から14年が経過し、「社会全体の受け止めも無関心が多くなっている」と感じる。それでも、「賠償金もすごい額。それだけの責任を負わされるということを(判決で)国民も理解してほしい」と期待を寄せた。
【時事通信社】
〔写真説明〕東京電力株主代表訴訟の控訴審判決を前に、取材に応じる武藤類子さん=5月23日、福島県田村市
2025年06月05日 07時06分