令和コメ騒動、政策論議深まらず=「増産」大合唱も中長期視点欠く―「深掘り・日本の課題」【25参院選】



スーパーからコメが消えた昨夏の極端な品薄に端を発した「令和のコメ騒動」。歴史的な価格高騰は家計を圧迫し、コメ政策への関心はかつてないほど高まった。参院選では各党とも減税や給付金といった物価高対策を競い、コメ不足解消へ「増産」を主張する。ただ、持続的な生産に必要な価格政策や競争力強化の戦略といった中長期的な視点に立った政策論議は深まっていない。

◇「増産」の大合唱

「2025年産から増産を進めていく」。参院選の公示を2日後に控えた今月1日、コメの安定供給に関する閣僚会議で、石破茂首相はこう強調した。小泉進次郎農林水産相も14日、関東最大のコメ産地、茨城県での街頭演説で「これからの時代は、安心して増産もできる前向きな農業に変えていく」と訴えた。

「令和のコメ騒動」の衝撃は大きく、自民党だけでなく、公明党や国民民主党など多くの政党が公約でコメの増産を主張。日本維新の会は「生産量の1.5倍」の数値目標を掲げている。

だが、コメの作り過ぎで供給が過剰になれば、価格は暴落しかねない。日本のコメ政策はこれまで、長期的に見れば人口減少などで需要は減少傾向にあるとして、補助金でほかの作物への転作を促す事実上の「減反政策」で、コメ余りを回避し価格を維持する政策を取ってきた。

与野党挙げての「増産」方針は、大きな政策転換につながる可能性があるだけに、ある農協(JA)幹部からは「当然、不安はある。丁寧な発信をしてほしい」として、どのような時間軸と方法で進めるのか説明を求める声が上がる。

◇所得支援で温度差

生産者の不安解消へ、野党の一部が打ち出すのは所得補償だ。立憲民主党は、農地を維持する農家に10アール当たり2万3000円を交付するなどの直接支払制度創設を明記。国民民主も農家の所得増へ10アール当たり1万5000円を支払うなどとしている。共産党は当面、農家の収入に60キロ当たり2万~2万数千円の最低保障を設ける考えだ。

一方、自民はこうした農地面積などに応じた補償は農業の競争力強化を妨げかねないと否定的だ。石破氏はこれまで通りの経営を続ける生産者に「価格が下がったから補償する話にはならない」と指摘。農地集約化などを通じたコスト低減の取り組みや、条件の悪い中山間地域への支援拡充であれば、税金投入に「理解は得られる」と語る。

ただ、自民は公約で「規模の大小や個人・法人等の経営形態にかかわらず担い手の育成・確保を進める」との方針も掲げ、伝統的な支持基盤である兼業農家への配慮もにじませる。

随意契約による安価な政府備蓄米の流通で、コメの価格はようやく下落に転じたが、コストに見合った価格で販売できなければ農家の経営は悪化する。小泉氏は備蓄米の安値放出を「国産米離れを防ぐためだ」と説明。17日の山形市での演説で「生産者が安心して増産できる。消費者は安心してお米を買える。この両立の実現へ具体的に政策を放っているのがわれわれだ」と強調したが、その均衡点となる価格水準は示していない。与野党ともに中長期的な視点での議論が必要と言えそうだ。

◇コメ価格の目標明言を

稲垣公雄・三菱総合研究所研究理事

各党とも、コメは増産するしかなく、増産には農家への配慮が必要だという認識では一致している。しかし、コメ価格の目標をいくらに設定して政策を打つべきかは、国民生活で一番重要なことにもかかわらず、どの党も明言していない。

論争になり得るのは、所得補償を全ての農家に出すのか、大規模農家に絞るのかどうかだ。この15年、中小・零細農家は事業継続が厳しくなり、大規模農家に集約されていった。これが、農家の数が減っても生産額がほぼ維持できている理由だ。中小・零細農家まで保護する方向に政策が急に振れるのは良くない。政策の連続性を毀損(きそん)せずやるべきだ。

食料問題は、都会に住む人ほど主体的に考えなくてはいけない。そのために、農業の状況など客観的な情報を開示した上で、国民が冷静に農業を応援できる状態になることを期待している。

【時事通信社】 〔写真説明〕稲垣公雄

三菱総合研究所研究理事(同社提供)

2025年07月18日 07時08分


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