戦後を彩った早慶戦=「負けられない」「歴史守る同志」―両監督、ライバル対決語る・大学野球



東京六大学野球連盟が発足して今年で100年。節目を迎えた同連盟リーグのシーズン最終週は、長らく早慶戦が開催され続けてきた。熱狂的な人気を生み、太平洋戦争による中断後は復興に向かう国内のスポーツ界を彩った伝統のライバル対決。早大の小宮山悟監督と慶大の堀井哲也監督に、早慶戦への思いを聞いた。(以下、敬称略)

野球部創部から間もない早大が慶大に「挑戦状」を送り、1903年に始まった早慶戦。応援のあまりの過熱ぶりに06年を最後に中断したが、25年に復活。戦争激化で試合ができなくなる前の43年には「出陣学徒壮行早慶戦」が行われ、戦後の46年にリーグ戦と共に再開した。

小宮山「試合ができなかった期間も含め、日本の野球界をリードしてきたのは早慶戦。黎明(れいめい)期にお互いをリスペクトし合ったからこそ、万人が認めてくれたと思う」

堀井「連綿たる歴史の積み重ねは、考えれば考えるほど想像を絶するようなレベルの重さ。それを次の世代にいい形で、あるいは発展的につなげていかないといけない」

60年秋、延べ38万人が観戦したとされる「早慶6連戦」は語り草。早大が2勝1敗で優勝決定戦に持ち込み、引き分け再試合を2度挟んで第6戦を制した。早大のエース安藤元博は5試合で完投、計49イニングを投げ抜いた。当時早大を指揮していた石井連蔵、慶大の前田祐吉から、両監督は現役時代に指導を受けた。

小宮山「石井さんは自慢になることは一切語らない人だった。でも、6連戦の時の方々がいろんなアドバイスをくれた。安藤さんは『練習がきつくて、試合の方が楽だった』と言っていた」

堀井「前田さんは6連戦の話はしなかった。当時は相当悔しかったと思う。『俺は負けた監督だから』と言っていたことを後から聞いた」

早慶戦は今でも神宮球場の外野席まで観客で埋まり、特別な雰囲気で行われる。

小宮山「たまたま1年生の春の早慶戦からベンチに入り、校旗入場をグラウンドから目の当たりにした時、感激とはこういうことだと思った。あの歓声は忘れられない」

堀井「順位に関係なく最終カードに組まれ、学生野球として最高のプレーをする責任がある。(監督として初めて迎えた時には)身震いした」

両監督は伝統を継承する価値や意味を学生たちに日々訴えているという。

小宮山「脈々と受け継がれているものは、上級生から下級生に指南されてきょうに至っている。元監督からは『OBとして学生のために尽くすんだぞ』と言われた」

堀井「時代とともにいろんなものは変わるが、学生野球らしさ、慶応らしい野球だけは貫いてほしい。この軸がずれると先人たちに申し訳ないし、早慶戦をやる意義がなくなってしまう」

早大にとって慶大とはどんな存在か。一方、慶大にとっての早大とは。

小宮山「リスペクトは絶対に忘れてはいけない。『早慶』と世の中に認知され、どちらか一方だけでは成り立たない。負けてはならない相手」

堀井「同志という感覚。負けたくないが、一緒にこの歴史を守っていかなければいけない。早稲田が強力な時ほど、われわれも成長できる」



◇小宮山監督の略歴

小宮山

悟氏(こみやま・さとる)千葉・芝浦工大柏高から2浪して早大に進み、投手として活躍。4年時には主将を務め、東京六大学リーグで通算20勝。ドラフト1位で90年にロッテ入団。97年に最優秀防御率のタイトルを獲得。横浜(現DeNA)、米大リーグのメッツでもプレーし、09年に現役引退。プロ野球通算117勝。19年1月から早大監督を務め、20年秋に初のリーグ優勝。24年春から3連覇中。59歳。千葉県出身。



◇堀井監督の略歴

堀井

哲也氏(ほりい・てつや)静岡・韮山高から慶大に進み、外野手として活躍。社会人野球の三菱自動車川崎で4年間プレーして現役引退。97年から三菱自動車岡崎、05年からはJR東日本で監督を務め、11年に都市対抗大会初優勝に導いた。19年12月から慶大を率いてリーグ優勝3度。21年には全日本大学選手権を制した。23年から大学日本代表の監督も務める。63歳。静岡県出身。



◇早慶戦アラカルト

◇通算の勝敗

早大が245勝202敗11分けと勝ち越し。リーグ優勝は早大が最多の49度、慶大は4位の40度。

◇優勝決定戦

早慶の対決は1939年春と秋、51年春、「早慶6連戦」となった60年秋、斎藤佑樹投手が早大主将だった2010年秋の計5度。39年秋を除き早大が勝った。立大も含めた三つどもえとなった51年春は早大が2連勝して優勝。

◇ベンチは固定

先攻、後攻にかかわらず、早慶戦は早大が一塁側、慶大が三塁側で固定。「リンゴ事件」と呼ばれる出来事が背景にある。1933年の早慶戦で、三塁側の早大応援席から投げ込まれたリンゴの芯を、慶大のスターだった水原茂三塁手が投げ返した。慶大が逆転勝ちを収めると、早大ファンがグラウンドになだれ込む乱闘騒ぎになった。

◇プロで活躍したOB

早大は三原脩、広岡達朗、谷沢健一、岡田彰布、和田毅、青木宣親、鳥谷敬ら。慶大は別当薫、藤田元司、佐々木信也、山下大輔、大久保秀昭、高木大成、高橋由伸らがいる。

【時事通信社】 〔写真説明〕インタビューに答える早大野球部の小宮山悟監督=7月1日、東京都西東京市 〔写真説明〕インタビューに答える慶大野球部の堀井哲也監督=6月19日、横浜市港北区 〔写真説明〕フクちゃんの大看板を背に、紙の角帽をかぶって応援する早大生=1968年10月27日、神宮球場 〔写真説明〕ミッキーマウスの大看板の下、紙のトンガリ帽子をかぶって応援する慶大生=1968年10月27日、神宮球場 〔写真説明〕春季リーグ戦で優勝を決め、胴上げされる早大の小宮山悟監督(中央)=2024年6月2日、神宮球場 〔写真説明〕秋季リーグの早大戦で優勝を決め、選手に胴上げされる慶大の堀井哲也監督=2021年10月31日、神宮球場

2025年08月14日 07時13分


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