集団的自衛権の限定行使を可能にした2015年の安全保障関連法成立から19日で10年。反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有が22年の国家安全保障戦略改定で認められ、米軍への攻撃を阻止する同自衛権行使に実効性を持たせることになった。自衛隊は北京や平壌に届く長射程ミサイルを撃てる実力組織に急速に変容しつつある。
自衛隊幹部は「集団的自衛権行使は高度な政治判断だが、ミサイルが配備される以上、米国から応戦要請があれば日米同盟上も断れないだろう」と話す。
国家安保戦略には、敵基地攻撃を条件付きで「自衛の範囲内」とした1956年の政府見解が、安保関連法に基づく武力行使にも「そのまま当てはまる」と記述。米が攻撃され日本の存立を脅かす「存立危機事態」と認定されれば、自衛の措置として集団的自衛権を行使して米と敵対する第三国をミサイルでたたくことが正当化される。
台湾有事が前提とされる防衛力整備計画(23~27年度)は、自衛隊が取得する長射程ミサイルに前計画の25倍に当たる5兆円を投じる。防衛省内で即戦力と期待されるのが、海自が最大400発取得する米国製巡航ミサイル「トマホーク」だ。
湾岸戦争やイラク戦争、最近では6月のイラン核施設攻撃にも使われ、米軍の先制攻撃の象徴とされる。米と親密な英国、オーストラリアとともに日本が保有することに政府関係者は「虎の子の兵器を提供するのは日本が信頼できる同盟国の証しであると同時に、台湾有事に自衛隊が関与するとの米側の期待の表れ」と指摘する。
米海軍横須賀基地(神奈川県)にはトマホークを発射できる米イージス艦が約10隻配備されているとみられ、日米関係者は「海自イージス艦8隻と合わせれば、相当な打撃力」と話す。イラク戦争では800発以上のトマホークが発射されたとされる。
反撃能力保有は閣議決定だけで決まった。政府は専守防衛を堅持すると強調するが、大量取得する射程1000キロ超のミサイルが他国に脅威を与えない必要最小限度の自衛力と言えるのか。少子高齢化で社会保障費の財源不足が深刻化する中、ミサイルに兆円単位の予算を投じ続ける是非を含め、国民的な議論は欠いたままだ。
【時事通信社】
〔写真説明〕米空母と共同訓練する海上自衛隊のイージス艦「あしがら」(手前)=2022年11月、フィリピン海(米海軍提供)
〔写真説明〕親イラン武装組織フーシ派に対する軍事作戦で、対地攻撃用の巡航ミサイル「トマホーク」を発射する米海軍のイージス艦=2024年1月、紅海(米海軍提供)
〔写真説明〕演習で米海軍のイージス巡洋艦から発射される巡航ミサイル「トマホーク」=2020年9月、海域は非公表(米海軍提供)
2025年09月19日 07時05分