石破茂首相は戦後80年に関する見解を、10月4日投開票の自民党総裁選後に公表する方向で調整に入った。政府関係者が24日、明らかにした。総裁選への影響を避けるための判断。首相は10月中に退任する見通しで、首相見解に反対する自民党の保守系議員からさらなる反発を招く可能性もある。
首相は24日、米ニューヨークで行った内外記者会見で「なぜあの戦争を止めることができなかったかについて、私なりの考えを述べたい」と語った。これに先立つ国連総会の一般討論演説でも、「いずれの国も歴史に真正面から向き合うことなくして、明るい未来は開けない」と強調。戦後80年を強く意識した。
見解は、軍部の暴走を抑えられなかった戦前の日本の政治体制の問題点や、国民が戦争支持に傾いた経緯など、国内状況の検証に主軸を置く方針だ。歴代内閣の歴史認識は引き継ぐとみられる。
法の支配が軽視され、分断と対立が進む今の国際情勢を踏まえ、首相は演説で「全体主義や無責任なポピュリズムを排し、偏狭なナショナリズムに陥らず、差別や排外主義を許さない。健全で強靱(きょうじん)な民主主義こそが平和と安全に大きく資する」と訴えた。
戦後の日本が国際舞台に復帰するに当たり「アジアの人々は寛容の精神を示した」と謝意を表明。戦後日本の歩みを「寛容の精神に支えられ、不戦の誓いの下、世界の恒久平和の実現のため力を尽くした」と振り返った。
演説の背景には首相の強い危機意識がある。ロシアがウクライナに軍事侵攻するなど武力による現状変更が公然と行われる現在と、先の大戦が起きた「1930年代後半から45年まで」は、ポピュリズムや排外主義の勃興といった世論や国際情勢が似ていると感じている。
このため首相は戦後80年に合わせた自身の見解発表を目指してきた。7月の参院選で敗北した後も北岡伸一東大名誉教授とひそかに面会するなど準備を進めた。北岡氏は故安倍晋三元首相の戦後70年談話の作成に関わった。
首相が退陣直前に与党内で賛否が分かれる政治課題に結論を出すことは極めて異例。政府高官も「前例がないことだ」と認めた。
【時事通信社】
〔写真説明〕内外記者会見に臨む石破茂首相=24日、米ニューヨーク(AFP時事)
2025年09月25日 07時04分