
2024年元日の能登半島地震を機に、金沢市出身の紙芝居師、中谷奈津子さん=神奈川県鎌倉市=は能登の神話や被災者の体験談を基にした紙芝居を作り始めた。両親が能登出身の中谷さんは「被災者の心の動きを記録し、次の世代に伝えたい」と意気込む。
中谷さんは約15年前から「紙芝居師なっちゃん」として活動。日本の神話や昔話を題材に紙芝居を創作し、各地の祭りや保育園などで披露している。
地震から1カ月後、両親の実家がある石川県志賀町などを訪れた。半壊し傾く家やひび割れた道路を目の当たりにし、「町が怪物に踏み荒らされたように崩れていてショックだった」と振り返る。
「能登にルーツを持つ自分も頑張らねば」。同年3月から、能登町の避難所などで紙芝居を披露し始めた。その中で「被災者の思いや復興へ向かう姿を記録に残そう」と決め、県内の被災自治体ごとに紙芝居を作りシリーズ化することにした。
同年7月、能登町の伝統行事「あばれ祭」を見て「祭りを絶やしてはならない」と頑張る人々の姿に心を打たれ、1作目の題材に。主人公の神様が地震の被害を見て悲しみ、祭りを続けられるよう能登の人々を守るというストーリーに仕立てた。同町の神社のイベントで披露すると、子どもたちは「お祭りなどが登場して面白い」と笑顔で楽しんでくれた。
2作目の舞台に半島最北端の珠洲市を選んだが、同9月に記録的な豪雨が半島北部を襲った。相次ぐ被災に「神も仏もいないのか」と嘆く声を聞き、「豪雨の記録も入れなければ」と作り直し、市内の山伏山にいる神様も豪雨被害を悲しんでいるというエピソードを盛り込んだ。
現在は輪島市を舞台にした3作目を制作中だ。「復興に向けた思いはずっと続いていく」との意味を込め、紙芝居の最後は必ず「つづく」で締める。「被災者の絶望や復興への前向きな姿を、紙芝居を通じて次の世代に伝えていきたい」と話している。
【時事通信社】
〔写真説明〕豪雨被害を受けた石川県珠洲市を舞台に紙芝居を作った中谷奈津子さん=8日、神奈川県鎌倉市
2025年12月31日 07時13分