
相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人が殺傷された事件では、神奈川県警が犠牲者の氏名を匿名で発表するという異例の対応が取られた。氏名の公表や実名報道の是非については、専門家の間でも「社会全体が知る必要がある」「事件の本質が見失われる」などと意見が分かれている。
県警の今村剛本部長は7月の会見で、殺人事件では被害者を原則実名で発表する中、匿名とした理由を改めて説明。遺族の強い要望に加え、「犠牲者が障害者施設の入所者で、遺族のプライバシー保護の必要性が極めて高いことなどから総合的に判断した」と述べ、対応は適切だったとの見解を示した。
専修大の山田健太教授(言論法)は、事件・事故の犠牲者の氏名について、「社会全体が知っておく必要がある。(知らないところで物事が進む)匿名社会は気持ち悪いと認識すべきだ」と話す。海外では、犠牲者の氏名を行政に開示請求できる国もあるが、日本にはその仕組みがなく、「他国以上に実名報道の意義が大きい」と指摘する。
もっとも、報道にあたっては、SNSなどでの被害者のバッシングにつながらないような配慮が必要だとし、「不確かな情報やコメンテーターによる臆測は出すべきでない」と語った。
跡見学園女子大の深町浩祥教授(被害者学)は、相模原殺傷事件のケースを、「障害者とその家族を見守る世間の目が成熟しておらず、(県警は)配慮は合理的だと判断したのでは」と分析。「遺族がプライバシーを侵害されたり、平穏な生活ができなくなったりするのなら、実名報道は控えるべきだという理屈が成り立つ」と話す。
「名前や顔写真が出ることで共感を呼び、初めて自分事として捉えられるようになることもある」と実名の意義を認める一方、「事件を構造的に考えようとする人には必要ない。事件の本質が見失われる面もある」との見方を示した。
〔写真説明〕障害者施設「津久井やまゆり園」入所者殺傷事件から10年となり、慰霊碑の前で手を合わせる関係者=26日、相模原市内
2026年07月27日 08時36分