
バンテリンドームナゴヤの薄暗い駐車場。帰り支度を済ませる前に、中日の松山晋也投手は報道陣の前にふらりと現れた。1点リードを守れず、初黒星を喫した9月6日の巨人戦。「これを消すにはやり返すしかない」。のちに明かした瞬時の決意が、25歳の強心臓を物語る。
その日も九回から登板。1死後に死球を与えると、失投を拾われるなどして満塁にされて代打坂本。直球勝負の4球目を中前にはじき返された。後続を含め計5連打で2点を失う屈辱。今季53試合で唯一の救援失敗だった。
調子に問題はなく、焦りや悪い予感もなかった。問題はリズム。乱れたのではなく、一定で単調過ぎたと自戒する。「勢いでガガガと投げたのが大きな原因。そういう流れのまま勝負してしまった」
150キロ台後半の直球と鋭いフォークを持つ剛腕。巨人のマルティネスと並ぶ46セーブで最多セーブに輝いた。八戸学院大から2023年に育成契約で入団して「悔しかった。絶対に巻き返す」。負けず嫌いが根底にある。
今季の救援成功率は、驚異の98.1%。浅尾投手コーチも手放しで評価し、「注意する場面が明確になった大事な1敗。同じ失敗をせず、気持ちが強いままだったのも素晴らしい」。本人も「ずっと生かす」と言うように、重責を痛感する。
まばゆい光を放った一年。最もすごみが詰まっていたのは、この1度の失敗だったと言える。理想像はマウンドに立った時点で相手が諦めてしまう守護神。「全て抑えて当たり前みたいな雰囲気になると思う。100%を目指したい」。心身とも豪快で雄大な背番号90は、力強い。
【時事通信社】
〔写真説明〕プロ野球交流戦でロッテに勝ち、喜ぶ中日の松山=6月6日、バンテリンドーム
2025年12月19日 07時05分