欧州、防衛自立へ道険しく=NATO、揺らぐ存在意義



【ロンドン時事】ロシアのウクライナ侵攻から3年を迎え、欧州の防衛政策は大きな転換点に差し掛かっている。トランプ米政権は早期の停戦合意を目指してロシアとの直接交渉に動く一方、停戦後の欧州の防衛は欧州各国が担うべきだとの立場を強調。「現代史上最も成功した軍事同盟」と称される北大西洋条約機構(NATO)の存在意義が揺らぐ中、欧州は自立に向けて防衛戦略の再構築を迫られている。

「欧州軍を創設しなければならない」。ウクライナのゼレンスキー大統領は15日、ドイツで開かれたミュンヘン安全保障会議で演説し、欧州各国の指導者にこう呼び掛けた。ロシアの脅威に加え、米国が欧州の防衛から手を引く可能性に備えるため、欧州独自の軍隊の必要性を強調した。

欧州各国もこの3年間、手をこまねいていたわけではない。NATOにはフィンランドとスウェーデンが新たに加盟し、欧州連合(EU)は閣僚に相当する欧州委員に防衛担当ポストを新設。欧州議会の安全保障・防衛小委員会も常任委員会に格上げされた。各国は国防費を積み増し、英シンクタンクの国際戦略研究所(IISS)によると、2024年の欧州全体の国防費は4570億ドル(約68兆円)と実質ベースで前年比約12%増加した。

しかし、ロシアに近いポーランドやバルト3国が軍備増強を急ぐ一方、イタリアやスペインなどでは防衛政策の優先度が低く、国ごとの温度差が目立つ。NATO加盟32カ国中、国内総生産(GDP)比2%の国防費目標を達成しているのは23カ国にとどまり、トランプ氏に格好の「口撃」材料を与えている。米国と比べて防衛産業基盤も弱く、武器や弾薬の円滑な調達に課題も残る。

欧州安全保障研究所(EUISS)は専門家約400人を対象とした調査に基づき、「米国の欧州放棄は、EUにとってロシアによる核攻撃と同等の不安定化要因となる」と指摘、欧州の防衛が米国に過度に依存していることに警鐘を鳴らした。トランプ政権が停戦合意の「成果」を急ぐ中、欧州は限られた時間で重要な決断を迫られている。

【時事通信社】 〔写真説明〕ウクライナのゼレンスキー大統領=15日、ドイツ・ミュンヘン(EPA時事)

2025年02月23日 07時09分


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