能登半島地震による液状化で、土地が水平方向にずれる「側方流動」が広範囲で起きた石川県内灘町、かほく市一帯の土地境界の見直しが難航している。ずれた後の場所で新たな境界を引きたい地元自治体に対し、国は「筆界(登記上の境界)は動かない」との法解釈を堅持。境界を定める手法が決まらず、復旧の遅れが懸念されている。
両市町を南北に走る県道沿いでは、液状化に伴い山側から滑り落ちる形でおおむね3メートル以下の側方流動が発生。内灘町の男性(44)は4年前に購入した住宅の土地が隣家の敷地に入り込んでいる可能性があり、トラブルを避けるため敷地を隔てるブロックを撤去するという。「境界確定まで何年も待てない。どうにかして安心して生活したい」と訴える。
両市町や県は「ずれた位置でそのまま境界を認めてほしい」との立場だ。土地一筆ごとの境界の位置や面積を地籍調査によって測り直し、その結果をそのまま登記できるよう求めている。
これに対し国は、筆界は当事者の合意だけでは動かせないとの最高裁判例を基に、大きくずれた場所で新たな境界を決めるには当事者間で土地を分割、譲渡して登記し直す「分筆・合筆」か、行政処分として区画を整備し直す「土地区画整理事業」が必要だと指摘する。いずれも住民への負担や手続き面で難があり、地元は「5年、10年とすぐに過ぎてしまう」と否定的だ。
筆界は動かないとする国の方針については、過去に例外があった。1995年の阪神大震災では大規模なずれや隆起が生じ、国は「地殻の変動に伴い広範囲にわたって地表面が水平移動した場合は、筆界も相対的に移動したものとして取り扱う」との通達を出した。
ただ、このときも「局部的な地表面の土砂の移動(崖崩れなど)の場合」は、筆界は動かないとの原則を維持。今回のケースについて、国は局部的な地表面の移動に当たるとし、「側方流動に押しつぶされる形で土地の一部を失う人が出てくる。軽々に解釈変更できない」と主張している。
着地点を見いだそうと、国、県・市町によるプロジェクトチームが5月29日に発足した。法制面の見直しの可能性や土地区画整理事業で対応する場合の手続き簡素化について議論する。
【時事通信社】
〔写真説明〕能登半島地震による液状化の影響を受けた家屋の境界を示す住民の男性=5月28日、石川県内灘町
2025年06月03日 07時05分