2020年の熊本豪雨で氾濫した球磨川の治水対策として、国は川辺川ダムの建設を計画している。約60年前に発表された多目的ダム計画は、いったん白紙撤回されたものの、豪雨災害を受け洪水時のみ水をためる「流水型」として建設が決まった。4日で豪雨発生から5年。翻弄(ほんろう)され続ける住民は、「腹立たしいが諦めるしかない」と複雑な感情を漏らす。
建設予定地に近い熊本県五木村で生まれ育った女性会社員(28)は「村の自慢は美しい自然」と強調する。だが、「子どもの頃の遊び場」だった川が茶色く濁り荒れ狂う姿を目の当たりにした恐怖は今も消えない。「抵抗はあるが、ダムでしか水害を防げないなら仕方がない」と話す。
09年のダム計画中止を受け、更地となっていた水没予定地を活用するために同村が建てた宿泊施設「渓流ヴィラITSUKI」。支配人を務める仮山常雄さん(60)は「再び水没の話を聞いたときは驚いた」と振り返る。ダムと村の共存に前向きの姿勢を示すが、「大雨でたまった水を放水した直後、川辺川の水質や生態系はどうなるのか」と心配する。
国土交通省の水質調査で、川辺川は06年以来18年連続で全国1位に認定されている。同省は、「治水型と比べ、流水型ダムが環境に与える影響は限定的」と説明するが、水質悪化を心配する声は少なくない。
「昔はもっと透き通っていた」。半世紀近くにわたりアユ漁師を続けてきた吉村勝徳さん(77)=同県人吉市=は、「自然に手を加えるのは人間のおごりだ」と語る。五木村の60代の無職男性も「人工物を建設して環境に影響がないはずがない」と憤る。
同省川辺川ダム砂防事務所(同県相良村)の熊谷隆則副所長は「反対の声があるのは事実で力不足を感じている。専門家の意見や調査結果などを踏まえ、引き続きダムの有効性を丁寧に説明したい」と話している。
【時事通信社】
〔写真説明〕ダム計画で水没予定の宿泊施設「渓流ヴィラITSUKI」=6月21日、熊本県五木村
〔写真説明〕漁具を作るアユ漁師の吉村勝徳さん=6月21日、熊本県人吉市
2025年07月04日 07時06分