
戦後81年を迎え戦争体験者が激減する中、戦後生まれが当時の状況を講話する「次世代の語り部」事業が東京都内の戦争関連施設で行われている。「語り継ぐことはリレーと似ている。受けた思いのバトンを渡したい」。戦争を体験していない世代ならではの視点で戦中・戦後の苦難を伝え、体験者が残した教訓を未来につなぐ。
この事業は厚生労働省の委託により、戦傷病者の苦難を伝えるしょうけい館(千代田区)と戦中・戦後の暮らしに関する資料を展示する昭和館(同)などで2019年に始まった。語り部になるには各館で3年程度の研修が必要。語り部は現在、しょうけい館に21人、昭和館に18人在籍する。全員が戦後生まれなのが特徴で、各館や学校などで講話を行っている。
障害者支援施設職員の中平裕子さん(60)=千葉県山武市=は幼少期、戦争を描いた映画や本に触れ、教師や親から平和の尊さを伝えられた。その思いを受け継ぐため、しょうけい館の語り部に応募。戦争で左脚を失った元軍人の体験を語るが、当初は戦争体験がないのに語っていいのか葛藤した。ただ今は「戦後世代の語り部は、人々に未来をどう歩むか考えるきっかけをつくらないといけない」と決意を示す。
江東区の会社員上野順一さん(61)は「ぼくの家にも戦争があった」と題し、父親=24年に89歳で死去=が体験した学童疎開や空襲などを昭和館で伝える。講話の前後には、現在の新聞の切り抜きを基に世界の現状を紹介することも。「世界では今も戦争が起きていることを知って、平和について考えてほしい」からだ。
学習塾経営の皆川初江さん(61)=墨田区=は「戦中の小学生」をテーマに昭和館で講話活動を行う。架空の少年を主人公とした物語で、当時の学校生活や食事について現在との相違点が分かるよう組み立てた。「戦争を少しでも身近に捉えてくれたら」と話す。
体験者の証言映像がある中で語り部を務める意義に関し、皆川さんは「記録や映像は『鑑賞』になってしまいがち。伝聞であっても、目の前にいる人が直接語ることで、対話も生まれる」と語る。
3人が共通して訴えるのが「地続き」という言葉だ。中平さんは「戦争の苦しみは終戦後も続き、私たちの社会はそれが土台となってつくられている」と強調。3人は戦後81年の今年も、戦争を今と未来につながるものとして理解してもらうため、講話に励んでいる。
【時事通信社】
〔写真説明〕インタビューに答える中平裕子さん=7月7日、東京都千代田区のしょうけい館
〔写真説明〕戦争で左脚を失った元軍人について講話する中平裕子さん(左奥)=7月7日、東京都千代田区のしょうけい館
〔写真説明〕インタビューに答える上野順一さん(右)と皆川初江さん=7月20日、東京都千代田区の昭和館
2026年08月18日 07時04分