「持ち込ませず」見直しの論点は=非核三原則、有識者に聞く



安全保障関連3文書の年内改定で、非核三原則見直しが焦点の一つとなっている。高市早苗首相が三原則を「政策上の方針として堅持している」と説明しつつも、「持ち込ませず」については将来にわたる維持を明言しないためだ。

なぜ今、米国の核兵器の日本への持ち込みが議論されるのか。3文書改定に向けた政府の「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議」メンバーで見直しに反対を唱えた東野篤子筑波大教授と、賛成する民間提言をまとめた兼原信克元内閣官房副長官補に話を聞いた。



◇三原則維持でも抑止強化可能=東野篤子筑波大教授

―有識者会議で非核三原則の見直し反対を表明された。

非核三原則を変える必要はないし、3文書改定の対象とすべきでない。変えるなら核の専門家を集めた有識者会議を開催すべきだ。

―変える必要がないと考える理由は。

3文書改定の目的は(ドローンや人工知能など)「新しい戦い方」への対応だ。日本は核拡散防止条約(NPT)体制に入っており、非核三原則の「持たず、作らず」は当たり前。「持ち込ませず」が問題になるが、日本への持ち込みを認める場合でも「有事か平時か」と「(核搭載艦の)一時寄港を想定するのか、国土への持ち込みを想定するのか」で意味は異なる。今の議論はその区別が付いていない。

米国は核兵器が特定の場所に存在するかを否定も肯定もしない「NCND」方針を変えていない。日本側が「持ち込ませる」と決めれば、米国の核兵器が持ち込まれ、抑止力が高まるという単純な話ではない。米側の政策や運用との関係を詰める必要がある。

―見直し派は、米国の核の存在の明示で抑止力が強化することを期待している。

非核三原則を見直さずとも、通常戦力の強化などで抑止力を高めることはできる。見直し派は中国による核攻撃の可能性を主張するが、日本が将来迎える有事は、伝統的な形の戦争よりもサイバー攻撃や認知戦を含む複合的な危機になると想定される。優先順位が違う。

―仮に見直す場合、外交・内政への影響は。

「唯一の被爆国」という看板や、核廃絶・不拡散を目指してきた日本の信頼は大きく崩れる。中国は「日本は核大国への道を歩む」と言うだろう。国内でどれほどの反発があるかは想像に難くない。同盟の「巻き込まれ」リスクを恐れる人もいるだろう。

―3文書見直しで重視すべき点は。

「日本を攻撃しても大したダメージを与えられず無駄だ」と思わせ、攻撃を思いとどまらせることだ。攻撃されたらすぐに復旧できる強靱(きょうじん)性が肝。道路・港湾を含むインフラや自衛隊設備の整備が重要だ。国民の納得感が高い領域を優先すべきだ。

〔東野篤子氏略歴〕

東野

篤子氏(ひがしの・あつこ)英バーミンガム大政治・国際関係研究科博士課程修了。経済協力開発機構(OECD)日本政府代表部専門調査員、広島市立大准教授などを経て筑波大教授。専門はヨーロッパ国際政治。54歳。



◇核搭載艦寄港で中国抑止=兼原信克元官房副長官補

―非核三原則のうち「持ち込ませず」の見直しは必要か。

核戦力を増強する中国を抑止するためには「撃ったら米国が撃ち返すぞ」と言うしかない。「持ち込ませず」を「撃ち込ませず」に変えるか、削除するべきだ。米国に「核を持ち込むな」と言って、どう国民の安全を守るのか。

―既に日本は米国の「核の傘」の下にある。

米国は(爆発力の大きい)戦略核で日本を守ると宣言している。だが、戦略核は威力が大き過ぎて「使えない兵器」だ。一方で、より出力が低く、実戦に投じやすいとされる戦術核の開発を中国が進めた場合、米国も日本の防衛のために戦術核を使ってくれるのかを、米側と話し合っておく必要がある。

―米国は核兵器がどこにあるかを明らかにしない政策を採っている。

日本政府は従来、日本に寄港する米艦艇は核兵器を搭載していないと説明してきた。米国が核兵器の存在を明言しないことからすれば、これは「うそ」と言える。(冷戦後に米国が海上配備型の戦術核を撤去したため)今は(日常的な寄港について)議論をせずに済んでいる。

だが米国は、恐らく2030年代後半に、核弾頭を搭載した海洋発射型巡航ミサイル(SLCMN)を配備する計画だ。再び日本への寄港が始まるが、もう、うそはつけない。核兵器を積んでいるか積んでいないか分からなくても「受け入れます」と言わなければならない。

―政府は、緊急事態には時の政権が核搭載艦の寄港可否を判断するとした岡田克也元外相の国会答弁を踏襲している。これでは不十分か。

不十分だ。岡田氏は「誰かが決断する」と言ったが、では誰が決断するかが今の焦点だ。平時から寄港できるようにしておかなければ、抑止は働かない。

―高市早苗首相は非核三原則を「堅持している」としつつ、将来的な見直しに含みも持たせる。

本当に変えるつもりなら世論を味方に付ける必要がある。国論を二分する問題であり、強引な印象を与えれば失敗する。有識者会議でオープンに議論し、多数の支持を得られれば進めるべきだ。

〔兼原信克氏略歴〕

兼原

信克氏(かねはら・のぶかつ)東大法卒。81年外務省入省。国際法局長、内閣官房副長官補(外交担当)、国家安全保障局次長などを歴任。23年笹川平和財団常務理事。山口県出身。67歳。

【時事通信社】 〔写真説明〕インタビューに応じる東野篤子筑波大教授=7月29日、東京都内 〔写真説明〕インタビューに応じる兼原信克元内閣官房副長官補=7月30日、東京都内

2026年08月21日 07時00分


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