
「過去最大の外国人侵略から自由になる」。トランプ米大統領は1月の就任以降、移民規制強化を掲げ、不法滞在者の強制送還にまい進する。移民流入は急減する一方で、労働力不足への懸念も浮上。米経済を長年支えてきた移民の主力、中南米系の動揺は大きい。
◇不法移民、取り締まり加速
「われわれ中南米系は標的にされている」。4日投開票のバージニア州知事選。10月末に行われた野党民主党候補者の集会に参加していた警察官のビクトル・エスコバーさん(55)はトランプ政権の移民政策に対する不安を口にした。
今年7月に成立したトランプ氏肝煎りの大型減税関連法では、不法移民対策も盛り込まれた。潤沢な予算が付いたことで、政権は全米各地で取り締まりを加速している。ノーム国土安全保障長官は10月24日の記者会見で「1月以降、不法移民51万5000人が逮捕、強制送還された」と説明。「新たに移民税関捜査局(ICE)の人員を1万人増やし、今後配置していく」と語った。
エスコバーさんは「強制送還で家族がばらばらになった友人がいる」と顔を曇らせた。「多くの中南米系がここで働き、犯罪に手を染めていない。彼らをひどく扱わないでほしい」と願う。
もっとも、中南米系のコミュニティーも一様ではない。10月下旬にバージニア州スターリングで開かれた与党共和党集会。終了後に南米ベネズエラ出身の同州ラティーノ諮問委員会委員長、アストリド・ガメズさんは「移民はアメリカンドリームのためにやって来るし、米国も移民が好きだ」としつつも、「誰が米国に滞在できるか、誰が来るべきかを選ぶ必要がある」とくぎを刺した。
◇建設・飲食業界に大打撃か
米議会予算局(CBO)は、2025年の米国への移民流入数が流出数との差し引きで40万人と、前年の280万人から急減すると見込む。労働力の供給減は、特に建設業や飲食業といった中南米系が多く従事する業種への打撃が大きいとの見方は根強い。
米中小企業団体「スモール・ビジネス・マジョリティー」が今年8月に公表した調査によると、過去3カ月で中南米系企業の62%が減収を、35%が人員減を報告。それ以外の企業も含めた全体の数字より高かった。「移民取り締まり強化と絡んでいる可能性がある」(同団体)との指摘が出ている。しかし、トランプ政権は移民の雇用が減っても「米国生まれの人の雇用を新たに増やしている」(高官)と意に介さない。
「中南米系は今の米国を築いている」。中南米系の団体、バージニア・ラティーノ指導者評議会のウォルター・テハダ会長は力説する。「われわれのコミュニティーは勤勉で、納税し、社会保障も支えている」とした上で、「すべての移民は感謝されるべきだ」と訴えた。(アレクサンドリア=南部バージニア州=時事)。
〔写真説明〕移民への取り締まりが進められている米シカゴで、連邦捜査官に立ち向かう男性(中央)=10月31日(AFP時事)
2025年11月04日 12時47分