侮辱罪を厳罰化した改正刑法の施行から3年。法務省は、有識者会議を設置して運用状況の検証を進めている。これに合わせ、同省は施行後の2022年7月から今年6月までに確定した有罪事例173件を公表。被害者の間では、厳罰化に一定の評価がある一方、「依然として誹謗(ひぼう)中傷は絶えない」などと不満の声も漏れる。
法務省によると、厳罰化で導入された罰金刑が科された割合は、インターネットに関連する事案で82%、関連しない事案で47%。SNSに被害者の写真を添えて「見た目からしてバケモノかよ」と投稿した事例は罰金30万円、電車内で「若ハゲ、お前人生終わってんな」とののしった事例は罰金10万円が、それぞれ科された。
被害者の受け止めは割れている。20年にSNSの中傷を苦に命を絶った女子プロレスラー木村花さん=当時22歳=の母、響子さん(48)は「一定の抑止効果は感じる」と指摘。これに対し、19年の池袋暴走事故で妻子を亡くし、中傷を受けた松永拓也さん(39)は「罰則も再犯防止策も不十分だ」と実効性を疑問視する。
侮辱罪は他人を公然と侮辱した場合に成立。以前は「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」だった法定刑が、法改正で「1年以下の懲役・禁錮(現・拘禁刑)または30万円以下の罰金」に強化された。法務省は今後、有識者会議の議論を踏まえ、制度見直しの要否を判断する方針だ。
◇侮辱罪の罰金・科料の事例
【罰金30万円】
一、SNSに被害者の画像と共に「見た目からしてバケモノかよ」と投稿
一、SNSに被害者を泥棒呼ばわりする動画を投稿
【罰金10万円】
一、ネット掲示板に被害者の氏名と共に「マジでデブだしきもいね」と投稿
一、ネット掲示板に被害者のSNSアカウントと共に「短足デブだよね」と投稿
一、電車内と駅構内で被害者に「若ハゲ、お前人生終わってんな」と発言
【科料9000円】
一、SNSに被害者の画像と共に外国語で「すごいブサイクだね」と投稿
一、喫茶店で被害者に「バカ、ブス、死ね」と発言
一、バス車内で被害者に「ファックユー」と発言。
【時事通信社】
2025年11月08日 14時34分
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